書評

実録カイシャデイズ

文: 山本 幸久 (作家)

『カイシャデイズ』 (山本幸久 著)

 ぼくがいた会社は大手デパートの子会社で、現場は親会社の店内の改装が主でした。部長以上の人間はほとんど親会社からやってきたひとだったように思います。

 火曜日の閉店後、店内に入り、解体にかかり、翌水曜日の定休日を丸一日つかい、木曜日の朝までに完成させるというまさに突貫工事。そのあいだ、ぼくは図面を小脇に挟んで隅っこに隠れておりました。

 これはタイヘンなことになった。どうにかしなければ。

 そこで二十二歳のぼくは一念発起して、内装の勉強に勤(いそし)み、なんてことはまるでなく、どうすりゃここ抜けだせるんだ?と真剣に悩みました。

 とりあえず営業に異動願いをだすと、一発でオッケー。ところがこれがさらなる地獄のはじまりでした。さきほども申しましたとおり、大手デパートの子会社ではあるんですが、親会社の改装だけではなく、新規開拓もしていかねばという方針のもと、飛び込みに近いことをやらされたのです。町中歩いて、目についた不動産屋やビルの管理会社の電話番号をメモして、会社に戻り、アポイントをとるんです。まずほとんど電話口で断わられる。それでもとにかく会ってくれることになってもですね、相手はハナから聞く気ないの。ちゃんと聞くのは閑職で時間を持て余しているひと。そういうオジサンに、きみ、もう少し気を落ち着かせて、ゆっくり話をしたまえ、そうしないとなんの話をしているのかさっぱりわからないよ、と諭(さと)されるように言われ、情けないことこのうえありませんでした。

 ぼくが会社を辞めた理由はそうした仕事が嫌でたまらなかったというのもあるんですが、直接の原因はもっとくだらないことなんですよ。

 ある日、お腹が減って、仕事の最中、コンビニで買ってきたメロンパンを食べていたら、上司に叱られたんです。それでもうこんな会社いてやるものかって。

 あっ。みなさん、あきれましたか。そうですよね。辞めた理由がメロンパンじゃだれもがあきれる。

 ほんとすいません、どうしようもない人間で。

 えぇと、そんな日々を思いだしつつ、『カイシャデイズ』を書きました。というと嘘になります。正直、この小説の舞台である会社、〈ココスペース〉の社員達にはモデルがおりません。しいていえば、どれもこれもぼく自身です。

 この際だからはっきり言っちゃいますか。

 駄目なヤツはぼくで、ちょっとかっこいいヤツは、ぼくがこうなりたいという人物です。うんとかっこいいヤツはでてきません。ついでにいえばアイドルっていうか、マドンナ的存在の女性はぼくの好みです。はい。

カイシャデイズ
山本幸久・著

定価:本体657円+税 発売日:2011年03月10日

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