するとたいていの医者たちは、一瞬「えっ」というような表情をし、すぐに「わかりました」と答えるといいます。が、そこからの態度はわかれ、「近藤先生がどう答えるか興味があります。帰ったら是非教えてくださいね」という者、一週間たっても画像情報を入れたCDをくれない者(一瞬でコピーできるのだから意地悪)と、まちまちです。
少しヘソが曲がっていると、「近藤の名前だけは書きたくない」とばかりに、宛先を空欄にされたり、がん研という文字は同じでも勝手に「がん研有明病院」と書かれたりと、小児病的反応もよく聞きます。大学病院やがん専門病院に多いようです。
極めつきは怒り出す医者。大阪方面の乳腺外科教授は「近藤」と聞いただけで激昂し、診察室の扉をバタンと締めて出て行ってしまったと。昔、私が乳房温存療法の普及キャンペーンをやっていたときに、よほどの怒りを溜め込んでいたのでしょう。そんな姿を見て患者・家族は、この人にだけは手術を頼むまいと思ったそうです。患者・家族の信頼を勝ち取るには、紳士的に振舞うことも大切です。
このような背景があるので、セカンドオピニオン外来での相談で放射線治療が適しているとなった場合、うかつに依頼すると、患者さんがイジメにあいかねない。それで慶応病院に紹介していたのですが、冒頭の要望書が届いて、その道も断たれました。そもそも患者さんは、主治医の顔を二度と見たくないから私に紹介状を頼むわけで、元の病院で紹介状を書いてもらえと要望するのは、患者・家族の気持ちを無視する心ない仕業です。
しかしこうなることは、半ば読めてもいました。『がん放置療法のすすめ』(文春新書)の後書きで感謝を捧げた相手は、尊敬できない者たちのいる「慶応病院」ではなく、自由と平等、そして独立自尊という理念を涵養してくれた「慶応義塾」であったのです。
私は後輩たちからの絶縁状を手にし、慶応病院から精神的に完全にフリーになりました。今後は、自由・平等・独立自尊だけを胸にし、患者の皆さんや社会のために働き続けていく所存です。
二〇一四年十二月
(「文庫版のためのあとがき」より)
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