- 2016.06.29
- 書評
『あさきゆめみし』から『寄生獣』まで。知恵と知識が「学べる」マンガはこれだ!
文:里中 満智子 (マンガ家/マンガジャパン代表)
『人生と勉強に効く 学べるマンガ100冊』 (佐渡島庸平、里中満智子ほか 著)
ジャンル :
#ノンフィクション
里中満智子先生おすすめ その(1)
日本人の教養が学べる『あさきゆめみし』
古文の授業で『源氏物語』に初めて触れる方も多いと思います。でも昔の言葉なので意味がよくつかめず困ったというときには、是非ともこのマンガを手に取っていただきたいです。とても分かりやすいですから。
ページをめくると、華麗でドラマチックな世界が広がります。繊細なタッチで、十二単のディテールに至るまで、丁寧に描き込まれていて、平安時代ならではの雅な雰囲気を出そうという作者の努力が伝わってきます。
物語は、いまからおよそ1000年ほど前の平安時代が舞台。帝の血を引く美男子・光源氏が主人公です。亡き母・桐壺の更衣の面影を追いかけて、あまたの女性遍歴を重ねていきます。葵の上という正室がいるにもかかわらず、義母の藤壺との道ならぬ恋に落ちる。さらには、藤壺を彷彿させる幼い紫の上を引き取って、理想の女性へと育て上げます。
まさに光り輝く魅力を持つ光源氏をめぐって、さまざまな女性が登場します。たとえば才色兼備である年上の恋人、六条の御息所。嫉妬にかられて生霊となって葵の上に取り憑きます。このあたり、物の怪の存在が信じられていた当時の世界観があらわれていますね。また、器量は悪いけれども気だてのよい末摘花など、脇役キャラも生き生きと描かれています。
その後、政争に敗れた光源氏は遠く明石へと流されるのですが、そこで明石の君との出会いを果たします。やがて晩年になって感じる孤独にいたるまで、じつに見事に描き切っています。
かつて、作者の大和和紀さんがこんな裏話をなさっていました。作品を描く前には、必ず原文を声に出して読みます、と。
実際のところ、幼い紫の上が初めて光源氏と出会ったときに「雀の子を伏籠に入れてあったのに、犬君がにがしてしまったの」と泣きながら訴えるシーンなど、原文にある「雀の子を犬君が逃がしつる」の雰囲気そのままですね。
中国大陸からの文化を取り入れたのち、ようやく日本らしい感性や美意識が、独自の熟成をみせはじめた当時。その意味でも、日本人として知っておくべき教養の土台となってくれる作品ですね。
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