
茂木 そもそものきっかけが、大竹さんの夫であるNさんが東川口にパソコンのパーツを買いに行ったら、パーツ屋の隣のペットショップでスナネズミに出合った、というのがいい。そのこと自体に非日常性があるというかね。
大竹 パソコンのマウスならぬ本物のマウスを買ってきた(笑)。彼は前から「何かふわふわしたものに触りたい」と言ってたんです。うちは二人とももの書きでパソコンから手を放せず、ふわふわ、ふにゃふにゃしたものから遠い生活なので。
茂木 でも、いろいろ厄介だったんですよね。最初に飼ったクロちゃんはすぐ死んじゃうし。二代目は何だったっけ?
大竹 最初のがモトクロで、その次がツギクロ。二人とも非業の死を……。
茂木 愛情のわりに、死んですぐ買い換えるところも面白かったんですけど(笑)。
大竹 私は抵抗があったんですけど、夫のほうが耐えられないというか……。彼がネズミを買ってきたことにまず驚いたし、実に真剣にまめに世話をすることも思いがけなかった。動物を飼うことによって、お互い新たに見えてきた部分があるんですよ。
茂木 そう、スナネズミを介した大竹さんとNさんの人間模様も非常に面白い。飛行機にスナネズミを連れて乗ろうとして断られたときのNさんは、決然として男らしくていいですよね。この本の主演男優賞はNさんだ。
ところで『きみのいる生活』の「きみ」って誰のことですか?
大竹 えーと、スナネズミです。
茂木 ほんと!? Nさんもいるしということじゃないの(笑)。実は、これは非常に手の込んだ恋愛小説なんじゃないかって、思うんだけれど。
大竹 うーん、それは新解釈だなあ(笑)。
ペットショップから買って帰ったときは何の個性もない、ただのネズミだったのが、一年もするとすごく面白くなってくるんです。三代目のモモが天寿を全うしたあと、つがいを飼い、すごく数が増えて大家族というか一種のネズミ社会を形成したんですが、その中で一匹一匹の「個性」が発揮されてくる。そうなると、人間との関係でも「きみと私」というかんじになりますね。
茂木 寿命は二~三年ですよね。
大竹 そう、面白くなったなあと思って見ていると、死んじゃうんですよ。その短い三年の中に、凝縮されていろいろなことが起きますね。
茂木 『ゾウの時間、ネズミの時間』(中公新書)じゃないけど、ゾウの寿命が七十年だと、ネズミは二十倍以上濃縮されているわけですが、それは感じました?
大竹 すごく感じました。特に死ぬとき。突然、老いがやってきて数日のうちに人生が終わってしまうんです。ネズミ自身が自分の老いに驚いているかんじ。
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