小林 『七人の侍』は五四年です。本当はもっと早くできなきゃいけないのに、四ヵ月という予定がどんどん延びちゃって。
芝山 クリント・イーストウッドの『チェンジリング』などは撮影期間が四十二日でしょう。それを思うと……。『七人の侍』は撮影が長引いて、会社は打ち切りも考えたらしいですね。
小林 『生きものの記録』というのは……。
芝山 これ、小林さんがよくぞ発掘なさったというか、僕は、つまんない映画という記憶しかなかったんですが、観直してみたら不思議な力がある。三船が後頭部を刈り上げて、バート・ランカスターみたいなんですよね(笑)。シドニー・ルメットのタッチも入ってるし、とにかく主人公が訳のわからない妄想にかられる映画でしょ。
小林 三船さんは名演技だと思いましたけど。最後にロングショットで階段で志村喬と根岸明美がすれ違っていくのね。なんかヨーロッパ映画みたいで。
芝山 ビキニ環礁での水爆実験がこの五四年ですから、もろに時代性を反映すると、つまんないプロパガンダ映画になりがちなところなんですが、妄想に突き動かされた映画になっちゃった。その面白さ。黒澤明は西洋的だから西洋人に分かりやすいという俗説がありますが、『生きものの記録』を見てると、西洋的というよりも、黒澤さんの突飛さというか、一種のエキセントリシティが、むしろ西洋人に分かりやすかったんじゃないでしょうか。
小林 なるほどね。それはそうかもしれない。
芝山 「忘れられた黒澤明」というのが何本かあって、『白痴』と『生きものの記録』の二本はそこに含まれていいんじゃないかと思いました。
小林 『隠し砦の三悪人』が『どん底』の翌年の五八年。ものすごく当たったんですよ。
芝山 興行成績一位でしたっけ? 『隠し砦』は部分的に少しずつ長過ぎるところがあるし、序盤の展開はとくに重いでしょ。ただ後半のたたみ込み方が印象的で……。
小林 そう。藤田進が出てくる……。
芝山 「裏切りごめん!」のところ。
小林 『悪い奴ほどよく眠る』が発表されたのは、日本のヌーヴェル・ヴァーグの年でした。大島渚が『青春残酷物語』『太陽の墓場』『日本の夜と霧』と三本撮った年ですよ。吉田喜重もそうだし。ジャーナリズムはそっちを向いてますよね。それらに比べると、話としては古いでしょ。そして黒澤さんは、いよいよ、必勝の三部作へ入っていくわけです。
『用心棒』は有楽座の試写で観たんですが、初め気持ち悪かったですよ。
-
『リーダーの言葉力』文藝春秋・編
ただいまこちらの本をプレゼントしております。奮ってご応募ください。
応募期間 2024/12/17~2024/12/24 賞品 『リーダーの言葉力』文藝春秋・編 5名様 ※プレゼントの応募には、本の話メールマガジンの登録が必要です。