警察小説を軸に小説の世界を広げていきたい
――その吉原のシステムだけでなく、情景描写もかなり細密に書き込まれています。徹底的に調べられていますね。
誉田 見てきたように嘘をつき、というのでしょうか。見てきたようになるまで、その世界観に浸れるようになるまで調べます。警察小説を書いていてもわからないことが出てくると、資料を調べたり関係者に取材したりします。けれど江戸時代に関しては人に訊くことはできないわけです。例えば蕎麦屋ですが、ドラマなどではよく丸太を半分に切ったようなテーブルが出てきます。だが江戸時代にテーブルを使うだろうかという疑問が湧きました。そんなとき、小上がりに腰かけて、横にお膳を置いて食べている浮世絵がありました。やはりテーブルは使っていないんです。よくお膳をひっくり返してお銚子が割れたりしますが、瀬戸物もあまり使っていません。金属製のいわゆるチロリや木杯なんですね。また、座布団は武士でもめったに使わないなどが浮世絵からわかります。本屋さんで資料的な1枚の絵が欲しいばかりに高価な本を買ってしまうこともありますね。
――『吉原暗黒譚』を江戸時代版警察小説と評する方もいるようです。
誉田 自分で特定のジャンルの作家だとは思っていません。今度は警察小説を書きましょうとなれば、そこを狙って書きますし、青春小説をとなれば、そこに集中します。警察小説にしても時代小説にしてもそうですが、もともとそのジャンルのファンで、それを読んできたから書きたいというのではなく、すべてのジャンルにおいてフラットな気持ちなんです。ただ、女子高生が主人公の『武士道シックスティーン』を書き下ろしで書いた直後に、新シリーズとなる女性刑事が主人公の『ドルチェ』の1篇を書いたのですが、何か元に戻ってきた感じがしたんですね。自分は警察小説書くのにこんなに慣れていたんだと。警察小説に軸を置きながら他の分野も書いていけるといいかなと思いますね。
――「ストロベリーナイト」や「ジウ」などの警察小説や「武士道」のシリーズなど、誉田さんの作品は女性が主人公の作品がほとんどですが、この小説では珍しく男性が主人公です。
誉田 自分だったら、くの一の彩音を主人公にするところですが、依頼が男性を主人公にというものだったんです。自分は時代劇では「必殺シリーズ」派なので、主人公を侍にするんだったら昼行灯的なキャラクターがいいかなというのがありました。中村主水は実は腕がたちますが、残念ながら本作の主人公、今村圭吾はからっきしです。
――後の「武士道」シリーズに見られる剣戟やアクションがこの小説に既にみられますね。
誉田 アクションシーンは短い言葉でリズムよくたたみかけるように描かなければなりません。スピード感が重要なので、長い説明文はつけられません。視点人物の見る、感じる範囲のことだけにすると、緊迫感も出てきます。説明にあたる、道具や技であったりするところはアクションシーンに至る前までに済ませておくのが重要だと思っています。
――時代小説は1作だけですが、今後書かれる予定はあるのでしょうか。
誉田 この作品だけを離れ小島にはしておきたくないのですが、スケジュール次第ですね。デビュー作の『妖の華』と『吉原暗黒譚』がどう繋がるのかがわかる、江戸時代が舞台で吸血鬼対忍者という『妖の絆』という作品もいずれ出したいと思っています。
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