インタビューほか

雅(みやび)と武、西と東の戦い

「本の話」編集部

『花や散るらん』 (葉室麟 著)

朝廷文化の核心

──雅の典型、和歌が重要な役割を担っています。

葉室  朝廷文化の核心は和歌だと思うんです。それを政治にも敷衍(ふえん)する。鎌倉時代に後鳥羽上皇が勅撰和歌集の編纂を一生懸命やるのは、和歌を勃興することが朝廷を盛り上げることなんだという発想があったからでしょう。雅の中心として和歌があり、当時の社会で確実に生きているということも伝えたかったんです。日本の武士というのは特殊で、東アジアは儒教で文官統治ですが、日本だけは武官統治なんです。だけど軍人だけでは江戸三百年を治められなかったと思うんです。武士は精神性の美しさや文化的豊かさを身につけていった過程があったと思います。他のアジアの国では儒官系の統治で、そのほうが腐敗が激しい。一方、日本は武官だった。それが明治まで続いたんです。

──幕府に仕えた歌人の北村季吟(きぎん)も顔を出します。

葉室  柳沢吉保は和歌に造詣が深いですからね。そういう柳沢をもう少し善人に書く方法もあったかもしれませんが、そこまでするとわけがわからなくなりますから。綱吉の治世を否定するのは簡単ですが、武断政治からある意味で文治政治に変わったとみることもできます。そういう綱吉、柳沢が忠臣蔵という「テロ」にあうわけです。ただ、内匠頭の刃傷は発作的ですが、討ち入りは実に計画的です。行為そのものが浅野家臣たちの意思の表現になっています。

──計画的といえば装束の統一性などに京の人物が絡んでいるのでは、というのは納得させられました。

葉室  尾形光琳(こうりん)ですね。元禄の武士の討ち入りは、いわゆる侍同士の果たし合いとは随分違うものだなというところからの発想です。美意識が貫かれていますね。だから後世まで語り継がれているのでしょう。

──そうして討ち入りになるわけですね。クライマックスは本書を読んでいただくとして、蔵人と咲弥の娘・香也(かや)のその後も気になります。第三作目は考えていらっしゃいますか。

葉室  まだ、考えていません。しかし、『いのちなりけり』もそうでしたが、『花や散るらん』もラストがこれでお終いというふうにはなっていないんですよ。

花や散るらん
葉室 麟・著

定価:1575円(税込) 発売日:2009年11月13日

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