書評

エモやん、野中広務・野村克也
「憎まれ役」に憎まれ口

文: 江本 孟紀 (野球評論家)

『憎まれ役』 (野中広務・野村克也 著)

 もっとも、だからといって民主党もどうでしょうか。まあ、民主党というのは、党ではなくて、自民党に入れてもらってない人の集まり。

 今の国会はそんな人ばかりの生徒会みたいなもんです。

 さて、お二人の共通点として、もう一つ趣味と仕事が一致しているという点があります。野村さんは趣味は野球と公言し、野中先生も趣味は政治とおっしゃっています。

 実際、野村さんの野球好きは本物だと思います。

 少年野球から高校野球、社会人野球と、本当によく見ておられる。

 私が選手として仕えている時も、江夏(豊)や柏原(純一)など、野球理論が好きな連中と夜を徹して語り合っていました。

 しかし、それくらいなら、王さんも長嶋さんも野球好きです。

 しかし、ノムさんがちがうのは、他のスポーツには目もくれないことです。

 どんなに野球が好きな選手でも、大体、別のスポーツにはまります。特にゴルフ。

 あの張本さんも、現役を辞めたらゴルフ三昧になりました。

 しかし、ノムさんは、全く興味を示さない。

 それだけ好きだから、本当に野球好きが寄ってくる。

 だから、野村学校の生徒が、全国に散らばって野球を教えているのだと思います。

 実際、野村門下だった阪神の木戸(克彦)・元二軍監督が言っていました。優勝した年や、今年の阪神が後半になって一時(いっとき)盛り返したのは明らかに野村遺産です、と。

 カネを出さないフロントが唯一聞いた野村さんの依頼が、とにかく球の速い投手をとれ、という指示でした。

 今の阪神は、中継ぎにも先発にも150キロの球を投げる投手がどんどん登板してきます。速球だけは、プロに入団してから速くすることはできないんです。野村時代に入団した投手たちが育ち、今の時代になって、一軍に登場するようになってきたのです。

 野球好きだからこそ、見抜いたスカウトの基本なんでしょう。

 一方、野中先生も、政治が心底お好きです。全国、どんな小さな市町村の選挙にも関心を抱いておられて、詳細にご存じです。

 私も、京都府のある市長選挙の応援演説に行ったことがあります。

 新幹線で京都駅におりたら、出たところのホームで先生が待っていてくださって、びっくりしました。もう引退されているのに、地元の小さな町の選挙に、ここまでの熱意を持っておられるのだということが伝わってきました。

 行動力と気配り、これは、とても真似ができません。野村さんも野中先生も、総理というタイプではないかもしれませんが、常に大局を見ながら、組織を動かす、参謀のような役目をずっと果たしていてほしいなと思います。

 野村さんには、王さんにも長嶋さんにも星野さんにもない、強烈で理性的な目があります。

 アマチュア野球とプロ野球の問題を改革したり、大リーグへの選手の流出を防ぐためにも、アジアリーグというのでしょうか、まず、日本、韓国、台湾でアジアチャンピオンリーグをやるとか交流戦をやるとか、そういった大きな仕掛けが必要なのに、現状ではそれぞれのチームのバックに日本テレビ、フジ、TBSとテレビ局がついていたりするから、利害が対立し、対症療法のようなことしかできません。

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憎まれ役
野村克也、野中広務・著

定価:本体533円+税 発売日:2009年11月10日

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