書評

エモやん、野中広務・野村克也
「憎まれ役」に憎まれ口

文: 江本 孟紀 (野球評論家)

『憎まれ役』 (野中広務・野村克也 著)

 野中先生は中国と関わりが深くて、野球がお好きなのだから、中国も含めたアジアリーグをいずれ作るといった構想も考えていただきたいですね。

 野球には国民性がでます。日本の繊細な野球を見れば、アジアの人々も、「かつての侵略者」のイメージだけではないことを知るでしょう。

 かつて、中国のピンポン外交というのがありましたが、今度は日本の野球外交です。

 こういうことの積み重ねが本当の友好になるのではないでしょうか。

 私は、政治家をしているときは、そんなに野中先生と縁があったわけではありません。まあ、野党のペイペイ参議院議員では、与党の大物政治家の、足元にも近寄れない。

 阪神ファンだと知っていたら、もっと早く近づいたんですが(笑)。

 ただ、私の出身県である高知県の親友が、高知さんさんテレビの開設のために、上京しては、郵政族のドンである野中先生のところに陳情に行っていたのは知っていました。

 キー局のフジテレビは、あまり乗り気ではなかったみたいですが、最後は野中先生のご尽力で、テレビ局の開設がなったと聞いています。

 そして、その背景に、先生の戦争体験があったことも。

 野中先生は、戦時中、動員されて高知で本土決戦の準備をしていて、終戦を迎え、その場で自決しようと考えていたところ、上官から、厳しく叱られ、戦後の復興に生命をかけようと決意されたそうです。

 若い日、一度は死を決意した高知という土地に格別の想いを抱いていた、それが、ご尽力をいただいた理由だそうです。

 その後、縁があって、私が京都で社会人野球チームの監督を引き受け、その練習グラウンドとして、先生の地元の京都府の京丹後市(野村監督の郷里である網野町も含まれる)のグラウンドを使用させていただくことになったりしたことから、いろいろおつきあいができました。

 野党時代から、不思議に思っていたのは、自民党らしくない、というと失礼ですが、タカ派的でない発言が多いのはなぜなのか。聞いていると戦争体験からくる歴史への深い想いが底流をなしていることがわかりました。

 威勢のいいタカ派が主流の永田町ですが、こうやって、人間観、人生観から発して、国家像や社会観を聞いてみると、威勢のいい人たちの浅薄さがみえてきます。

 さて、私しか知らないことを言っておきます。

 お二人の共通点がいろいろ書いてありますが、私はもう一つの共通点を知っています。

 それは、お二人が、とにかく、よく食べるということです。

 野中先生は八十二歳、野村監督は七十二歳です。

 しかし、健啖です。しかも、肉を食べる。憎まれ役でなくて、にくまみれ(笑)。

 先生につれて行っていただいた、東京板橋区の、焼肉の隠れ家的名店がありました。めちゃくちゃおいしいんだけれど、たくさん出てくる。野球選手だった私が、量が多くて残しそうになったくらいのボリュームなのに、八十を越えた先生が、ペロッとたいらげて、デザートまでしっかり召し上がっていらっしゃる。

 この前、テレビ局の若い人を連れて行って、同じコースをご馳走したら、二人とも途中で吐かないと全部食べられないと言っていました。

 野村監督と、先日仙台で食事しましたが、あの人もイタリア料理店で三時間ひたすら注文して食事です。

 まあ、これくらいでないと、人に憎まれながら、思ったことをズバズバ言って生き抜くことはできないんやな、と思います。

 五十二歳で、胃腸障害とかいう名目で入院して首相の責任を投げ出した人とはえらいちがい。

 これからは、総裁選は、大食いコンテストで決めたほうがええかもしれませんね。

憎まれ役
野村克也、野中広務・著

定価:本体533円+税 発売日:2009年11月10日

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