書評

エモやん、野中広務・野村克也
「憎まれ役」に憎まれ口

文: 江本 孟紀 (野球評論家)

『憎まれ役』 (野中広務・野村克也 著)

 野中広務先生、野村克也監督、このお二人の異色の対談本、しかも、『憎まれ役』なんていうトンデモないタイトルの本の書評を依頼されたときは、正直、ちょっと迷いました。引き受けていいものか、と。

 なんせ、天下御免の憎まれ役のお二人です。そんなお方の本に、いらんことを言うて、逆に憎まれたら、私なんか生きてゆけません。

 しかし、野球と政治の世界を両方かじっている人間が少ないのは事実です。それに、私が野村監督にも野中先生にもお世話になっていることも事実ですから、ご両所を知る人間として、こわごわながら、引き受けさせていただきます。

 もっとも、私は野村監督に対しては、元々、憎まれ口でおつきあいをしています。

 実は、先日、京都府網野町(現・京丹後市)の野村監督の実家があった場所に行ってきました。昔の町役場、現在の市役所の一角に、野村記念館といったコーナーがあったんです。

 これは、野村さんに見せなあかんと思って携帯で写真を撮って、監督にお見せしました。

「ほう、まだ、そんなんあるんか。最近は地元にも全然帰ってないし、俺は地元では嫌われとるからなあ」と監督。

「そんなことないですよ。野村さんは、地元だけやなくて、全国でも十分嫌われてますよ」と私。

 まあ、こういう関係です。

 野中先生には、さすがにそんな怖(おそろ)しいことは言えませんが、ご自身で「憎まれ役世に憚(はばか)る」と序論を書き出されているのには驚きました。

 ほんまに怖いものなし、ですね。

 言われてみると、この二人には共通点が多い。

 京都府出身。

 カッとしやすい。

 週刊誌で書かれるときは大体悪役。

 そして、何よりも、先生が町会議員から身を起こして自民党幹事長、監督はテスト生出身で日本シリーズ三回優勝の名監督。指揮官としてだけでなく、勝負師としても三冠王にMVP。先生は、生涯で選挙15回無敗。

 いわば、誰の世話にもならずに、自分の力で這い上がった。統率と勝負、その二つに、ものすごい結果を残したお二人ですから、この二人が今の世の中をどう見ているか、十分に傾聴に値する本だと思います。

 実際、野球も政治も大転換期にあります。

 いや、従来から転換期であり危機は存在していたのに、弥縫(びほう)策を繰り返して逃げてきました。

 野球界には長嶋幻想がありました。彼を引っ張りだせれば、テレビ地上波の視聴率を稼いで、野球人気を保(も)たせることができる。

 一方、政治の世界にも、小泉幻想がありました。小泉劇場とやらで、自民党の人気が劇的に回復し、ワイドショーまで政治を扱う時代になりました。

 しかし、地に足をつけないやり方の弊害が現在モロにでてきて、ニッチもサッチ(洒落ではありません)もいかなくなったのが、今の政治であり、野球なのです。

 お二人は片や長嶋を、片や小泉を徹底的に批判していた人物です。いや、長嶋さんと小泉さんから、悪役扱いされてきた人と言っていいでしょう。マスコミもそれに乗っかって、随分悪口を書いてきました。お二人とも、どちらかといえば負のイメージの強い人です。

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憎まれ役
野村克也、野中広務・著

定価:本体533円+税 発売日:2009年11月10日

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