書評

エモやん、野中広務・野村克也
「憎まれ役」に憎まれ口

文: 江本 孟紀 (野球評論家)

『憎まれ役』 (野中広務・野村克也 著)

 しかし、今になってみると、この人たちの言っていたことのリアリティに気がつきます。

 それは地道に基本から野球と政治をやり、浮ついた上昇志向の人間ではなく、従来からのファンの声を大事にしようということにつきるように思います。

 その意味で、野中先生の「巨人軍と自民党が凋落したのには同じ原因がある」という分析や、「V9巨人軍こそ、日本と自民党の理想だった」という主張にはうなずかされるものがありました。

 要するに、今の日本人は弱かったころの阪神タイガースのように、守りをおろそかにし、個人プレイに走り、犠牲バントやカバープレイを怠り、バットをブリブリ振り回すだけの民族になっているというのです。

 それをグローバリズムだとか市場原理主義とか格好いい言葉で誤魔化して、調子に乗っていたら、野球人気は地上波ではほとんど放映されないくらい低迷し、政治の世界では、地方が荒れ果て、税収がなくなったために、農村どころか自然まで破壊されてしまっている。

 この対談が行われたのが、参議院選挙で自民党が大敗する前であり、安倍さんが辞任に追い込まれる前であったことを考えると、あまりに的確な予言だったとしか言いようがありません。

 そして、野中先生が言い切られたこんな意味の言葉に、すさまじい気迫を感じました。

「小泉と同じ時代に議員バッチをつけていたくない、その想いが自分の退路を断って、引退し、反小泉の戦いの旗印となろうと思った理由である」

 この気迫は、地方議員出身であるからこそ、目の当たりに見てこられた、小泉改革によるひずみ、地方の荒廃、弱者切り捨て、格差社会の到来という現実への危機感から生まれたものだったのでしょう。

 自民党の参議院選挙での大敗は、地方の反乱が原因だったと言われていますが、安倍前首相も、この大先輩の気迫ある言葉に、もっと注意を払っておくべきでした。

 もっとも、私に言わせると、自民党は、もうすでに死んでいるんだと思います(生涯、自民党を愛する野中先生ごめんなさい)。

 細川政権の誕生によって、一度政権を失い、野党に転落したあとの自民党は、本来の自民党ではありません。個性もなければ、威厳もない。政権を担うという責任感と、権力を担うことに対する自省と謙虚さもありません。

 野中先生とか、亀井静香さんとか、小泉さんがのちに「抵抗勢力」と名付けた強烈な個性の人々によってゾンビのごとく蘇ったものの、それは、すでに本来の自民党ではなかったのだと思います。

 世襲議員か官僚出身かタレントか。つまり勝ち組のエリートばかり。

 弱者への想像力を欠き、選挙民の声を聞く活動もしていません。

 権力にしがみついているだけで、権力をどういい方向に使うか、考えていない人ばかりです。

 彼らをみていると、日本の未来を担うという責任感もうかがえません。

 テレビ受けすることばかり言っている今の議員たちをみると、私がタレント議員といつまでも蔑(さげす)まれていたことに腹が立ちますね。

 今の議員は全員、タレント議員やないですか?

 しかも、今までのタレント議員は元々政治家になる前にタレントがあるんだけれど、二世とか見かけがいいとかいう程度の「才能」しかないんやから、彼らはタレント議員以下です。

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憎まれ役
野村克也、野中広務・著

定価:本体533円+税 発売日:2009年11月10日

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