2014.11.03 書評

リークをめぐる3つの形態

文: 佐藤 優 (作家・元外務省主任分析官)

『マネー喰い 金融記者極秘ファイル』 (小野一起 著)

 新聞はもっとも身近な情報源だ。それにもかかわらず、新聞記者がどのような取材をし、記事を書いているかについては、マスメディアに身を置く人か、取材対象になった経験のある人を除いて、あまり知られていない。本書は、新聞記者の世界を等身大で描いた優れた作品だ。

 舞台は近未来の日本だ。作品の中に具体的な時期は明示されていないが、2003年前後をモデルの一つにしていると思われる。2001年4月に成立した小泉純一郎内閣は、竹中平蔵氏を経済財政政策担当相兼金融担当相に起用し、バブル経済の負の遺産である不良債権処理を加速化する。銀行の資産査定を厳しくし、自己資本比率が基準に達しない銀行には、地方銀行だけでなくメガバンクにも公的資金を注入することにした。例えば、自己資本比率が基準を下回ったりそな銀行には、2003年5月に預金保険機構から公的資金が注入された。また、小泉政権は「官から民へ」のスローガンの下、規制緩和を進め、新自由主義政策を推進する。この構造改革路線は、政治エリートの勢力図を変化させることになった。すなわち、従来、自民党の主流を占めた、田中角栄、竹下登の両元首相の流れを引く、政治権力によって、中央から地方へ富を再分配する派閥が持つ権力が急速に奪われていった。この作品では、新党ふるさと党首の大河原太一郎が守旧派勢力の代表として描かれている。官僚が、構造改革派、守旧派の双方に保険をかけて生き残りを図った。この作品の金融庁幹部・藤谷正明がまさにそのような官僚だ。

 小泉構造改革路線から13年が経ったが、改革の恩恵を受けたのは都市部の富裕層に限定されている。新自由主義路線が続けば、地方はますます疲弊していく。もっとも、中央から地方に富を再分配する過程に政治家が関与すれば、腐敗、汚職が生じやすく、経済合理性を損なう。高度経済成長が望めない右肩下がりの状況で、旧派閥政治への回帰も非現実的だ。著者は、この作品を通じて、地方の金融機関が破綻したメガバンクを資金的に支え、メガバンクのノウハウや人材を地域経済の活性化に生かすという処方箋を提示している。

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マネー喰い 金融記者極秘ファイル
小野一起・著

定価:本体590円+税 発売日:2014年10月10日

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