わかってもらえなくて当然
桜木 『壇蜜日記』(文春文庫、10月10日発売)を発売前に読ませていただいたとき、まず驚いたんです。
壇 はい?
桜木 なんと最初から型がある。壇節です。思わず「どこまで編集者の手が入っていますか」と訊いたら、「いや、一切入れていません」と。最初はどんなふうに依頼されたんですか。
壇 マネージャーが「壇さん、日記書いて」と。
桜木 そんな軽い感じで。
壇 「いつからですか」と聞くと「今でしょ」と言われて、書きました(笑)。昨年10月からはじめて、もうすぐ1年になろうとしています。
桜木 最高にお忙しい中でね。昨年は週刊誌のグラビアでご一緒させていただいて。私の書いた文章に写真でお応えいただき、本当にありがとうございました。
壇 グラビアに作家の方が文章を書いてくださることってないですから、実現できて本当にうれしかったです。その時の文章は、昔の恋人を電車の中で見かけるというストーリーでしたが、実は私も元恋人のその後を風の便りで聞いたことがあったんです。そのとき、彼が不幸になっているか幸せになっているか、どちらだとうれしいかと考えたら、不幸だったときのほうが格段にバツがわるいなあと思ったんです。
桜木 別れた男は幸せでいてもらわないと、こっちが困るの。
壇 そのとおりだと思います。自分が振ったことがきっかけで、1人の男の人生が転落していくなんて、現実ではあってはいけないことだと思うんです。その人が後々不幸だと、自分が費やした気持ちすらも報われない気がしてしょうがないです。
桜木 壇さんのそういう姿勢は、文章にもずいぶん表れてますよ。こんなに多忙な日々を過ごしているのに、日記で一言も泣き言を言ってない。「忙しい」「疲れた」「あの人にこれを言われた」と愚痴を言っていない。
おそらくテレビの世界も、楽屋や画面に映らないところでやっかみなどあるんだろうと思うんですね。でも、けっして本人からは言わない。だから、「あ、この人に意地悪をしたり悪く言ったりした人は、知らず知らずのうちに自分が傷つくだろうなあ」と感じたんです。壇さんはやっかみや妬みなど、人の嫌なところをテレビでも見せないようにされてると思うんですが、ご自分の中に決め事があるんですか。
壇 わかってもらえなくて当然だし、わかってあげられなくて当然だと思えば、大抵のことに腹は立たない気がして。
桜木 うん、うん!
壇 結局、話せばわかるという理屈がまかりとおっていたら、五・一五事件で犬養(毅)さんは死んでないと思うんです。
桜木 その話がくる!?(笑) ここですよ、壇節の外しは。見事ですよ。
壇 だから「話せばわかる」と言った犬養さんが死んだのは、私の中でものすごく大きいレボリューションで……。犬養さんは「話せばわかる」と言っても、わかってもらえなかったので、世の中はこんなもんだなと。私はわかってもらえなくても銃で撃たれなかっただけでありがたいと思って、日々、生きています。
桜木 本当にそうだねえ。私、たぶん壇さんとはお話ししなくても何となく通じるので、今日は対談にならないと思う(笑)。どうしましょうね。
-
『赤毛のアン論』松本侑子・著
ただいまこちらの本をプレゼントしております。奮ってご応募ください。
応募期間 2024/11/20~2024/11/28 賞品 『赤毛のアン論』松本侑子・著 5名様 ※プレゼントの応募には、本の話メールマガジンの登録が必要です。