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<『東大合格生のノートはかならず美しい』コラボ秘話><br />ノートも本もITには負けない

<『東大合格生のノートはかならず美しい』コラボ秘話>
ノートも本もITには負けない

文:森川卓也(コクヨS&T社長) ,文:太田あや(インタビュアー)

『東大合格生のノートはかならず美しい』(太田あや 著)


ジャンル : #趣味・実用

 ──正直言って、開発の速さには、文藝春秋の方も驚いたようです。大きな会社には生産計画や予算もあるので、「本とノートのコラボ」というアイデアは面白いけれど、とても単行本と一緒に出すのは無理だろうと考えていました。

  それだけ「ノートのコクヨ」に危機感があったからでしょうか。

森川  おそらく、出版社も似たような悩みをかかえておられると思いますが、少子高齢化・IT化の影響で、市場規模は縮小しています。

  しかし、その中でノートにおけるコクヨの占めるシェアは拡大している。シェアは落ちないけれど、自分たちの食い扶持(ぶち)は減ってくる。こういう時に、ノートや文具以外の多角化に走るのも必要なことです。

  しかし、コクヨは紙から出発した会社であり、和式帳簿からスタートした会社です。本業をおろそかにしていいものではありません。本業をおろそかにしないためには付加価値のある新しい商品を開発するしかありません。私たちの場合、「カドケシ」という商品が、文具開発に対する既成観念を変えてくれたという経験があります。

  「消しゴム」の将来について、デザインの変更くらいしか新しい商品は考えられないと、私たち自身が思考停止していました。デザインの変更だけでは、なかなか新しいマーケットの創出は困難です。ところが、弊社が七年前から実施しているデザインコンペ「コクヨデザインアワード」で「カドケシ」という商品のアイデアを頂戴しました。完成度が高いアイデアでしたので、そのアイデアを忠実に再現した商品なのですが、想像以上のニーズがありました。

  個客の声やアイデアを真摯(しんし)に受け止めることで、こういう商品の開発も出来るのだ、ということが実感としてわかったのです。

  そういう意味では、今回のノートも、ただ「ノート」というハードウェアを売るだけでなく、使い方というソフトウェアを単行本で展開するという新しい個客対応のビジネスではないかと思います。 

──森川社長も若い時から、ノートに関わっておられたのですか?

森川  もちろんです。私自身、文具や紙製品の販売にも企画にも携わっています。今回のコラボのことがあって、いろいろ考えてみました。

  ノートと本は似た産業なんです。原材料は紙とインクがほとんどだ、ということも似ています。でも、それ以上に歴史の中で果たしてきた役割、そして、現在、歴史の波の中で問われている役割が似ているのだと思います。

  ノートと本には三つの役割があったと思います。記録と整理と伝達。紙というものが発明されてから、ノートは記録と整理、本は記録と伝達の手段として、重要な役割を果たしてきました。

  紙の発明が人類の重大な発明であり、印刷術の発明が近代社会の重大な出来事として歴史に記録されているのも、人類の歴史にとって、記録と整理と伝達という三つの機能が非常に重要であることを示しています。ノートと本は、その三つの機能の上に、何百年の間、不動の位置を占めていたのです。

  そこにITという新しいツールが登場しました。

  記録も整理も情報の伝達も、ITの出現によって、簡単に出来、スピードも速くなりました。パソコン、携帯の普及により「紙とインク」の産業を過去のもののように思っている人もいると思います。

  果たしてそうなのでしょうか。ノート作りに関わっている私たち、あるいは、今回コラボさせていただいている文藝春秋の皆さんも「紙とインク」のよさを知っているだけに、悔しい思いを抱いていたと思います。

  しかし、ここにきて、人々にIT疲れのようなものを感じるのは私だけでしょうか。手帳からPDA(携帯情報端末)に移行したかというとそうでもない。最近は社会人相手にもノート術や手帳術といった本が売れているそうです。

  一体、ITと「紙とインク」にどういう差があるか。考えてみると、記録、整理、伝達という機能は同じでも、文字を書くという作業がITにはありません。  タイピングをすることと、文字を書くということには、五感を使うという意味で全くちがうものがあると思います。人間の感覚をフルに使う、文字を書くというスタイルが、実は、記録にも整理にも伝達にも必要ではないか。

  東大に合格した受験生のノートを見ていると、まさにそう思いました。 

東大合格生のノートはかならず美しい
太田あや・著

定価:1000円(税込) 発売日:2008年09月30日

詳しい内容はこちら

『東大合格生のノートはかならず美しい』特設サイトはこちら

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