- 2016.09.01
- 特集
東映の歴史とは、すなわち、成功と蹉跌とが糾う、生き残りの歴史である。――水道橋博士(第1回)
文:水道橋博士 (漫才師)
『あかんやつら 東映京都撮影所血風録』 (春日太一 著)
ジャンル :
#ノンフィクション
そもそもボクが、春日太一氏を初めて知ったのは2010年、1月――。
氏の2冊目となる著書、文春新書『天才 勝新太郎』からだった。
平凡なタイトル、聞いたことのない著者名。
毎月、過剰に出版される新書群のなかで普通ならスルーするであろうに、何故、この本を手にとったのか?
それはボクが、以前から勝新には少なからず興味があり、数多の自伝、評伝を読んできた自負はあるからだ。
特に、山城新伍著『若山富三郎 勝新太郎 無頼控 おこりんぼ さびしんぼ』(幻冬舎 1998年。その後、2008年に廣済堂出版より解説・吉田豪で文庫化)の大ファンで、当時の書評に、このように記した。
「勝新太郎は『勝新大陸』、『勝新山脈』と呼ぶべき、常人の住む娑婆とは隔離された、芸能の真理を身に纏う偉大なる無法者であり続けた。この一般には見えざる概念上の、大陸、山脈は、川勝正幸さんや特殊漫画家・根本敬らの研究、紹介により、昨今、その存在が多くの人に知られるようになった。しかし、この偉大なる『芸能山脈』である勝新太郎が兄・若山富三郎、父・杵屋勝東治から連なる巨大な連峰であったことは、この芸能一家と密に付き合った、山城新伍というアルピニスト、及び、語り部がいて、あらためて気づかされるのである。この本は、役者・勝新太郎の世評の「破天荒」では収まりきれない、芸の凄みを同じ役者側から伝えた第一級の資料であった」と。
そんなボクも含む90年代の勝新再評価の一方で、山城新伍や同時代人が次々と亡くなり、巷間語られる勝新伝説は、大酒豪ぶり、借金王などの豪放磊落伝、「もうパンツははかない」のコカイン事件の顛末など、私生活の破天荒さばかりで、本来、撮影所に聳えていたはずの勝新山脈は蜃気楼のように曖昧になっていた。
第2回に続く
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『赤毛のアン論』松本侑子・著
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