そんな問いに、本書は例えばこんな言葉を用意してくれています。曰く
いま言われている「自己実現」というのは、何のことはない、社会的地位や名声を得ること、つまり成功すること、出世することをそう言っているので、人びとを虚しい自己顕示競争に駆り立てるだけです
だいたい、「才能」とか、「他人に抜きん出た個性」など、そうそうあるものではないのです。(中略)普通の人間は人並みの才能しか持ちあわせていません
人間の生涯を幸福一色、満足一色で塗りつぶそうということ自体が、所詮、無理な話です
これ、そう言われてみれば至極尤もと言うか、むしろ言われるまで気付かなかったって人、結構いやしませんかね? 少なくとも、僕はそうでした。勿論、だから努力をしなくていい、と言っている訳ではありません。著者の渡辺さんは、人生で最も大切なものは
どんな異性に出会ったか、どんな友に出会ったか、どんな仲間とメシを食ってきたか
に尽きると言い切り、更にその大事なものの為には努力を惜しむべきではないと説いた上で、
そういう努力を積み重ねながら、平凡に、無名のままに過ごすのは、つまらないことでも、虚しいことでもありません
と喝破します。どうです? こう言って貰えると、ちょっと安心しませんか?
さて、だらだらとまとまりもなく書き連ねましたが、要するに『無名の人生』という作品は僕にとって、有名になる事、成功する事、偉くなる事、リッチになる事などなど以外にも、人生にはたくさんの生き甲斐や幸福があるんだよと、教えてくれた本でした。これから先、心も体も慌ただしい毎日の生活の中で幸せを見失ってしまったような時には、きっとまた本書のお世話になるような気がします。
そう言えばもう一人、渡辺さんと似たようなことを言っている人生の達人を思い出したので、この駄文の締めくくりに紹介させて頂きます。
蚊帳の月 いらぬ天下を 取らんより
たとえ神様に天下をくれてやると言われても、俺は蚊帳に溢れる月の光の中で眠れる今の境遇の方がよっぽどいいね。江戸後期の俳人・小林一茶の、そんな気概が溢れる一句です。
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