- 2015.01.11
- インタビュー・対談
「自分の身に波乱万丈が起こって1回きりの人生ならば、何をやってもいいんじゃないかって」
「本の話」編集部
『起き姫 口入れ屋のおんな』 (杉本章子 著)
ジャンル :
#歴史・時代小説
――作品の執筆中に杉本さんご自身の身辺でも大きな変化があったと聞いています。
父に悪性リンパ腫が見つかって、あっという間に翌年2月に亡くなりました。実は前作の『春告鳥 女占い十二か月』を毎月書いている途中で、自分もかなり深刻な病気だとわかったのですが、でもそれはそれで自分のことだから、あえて無理な治療はせず共存共倒でいくしかない(笑)と決めました。でも肉親の病気だと、自分が仕事を休んでも1日でも長く生きてほしいし、同時に母の認知症が進んで24時間介護が必要となってしまい……。
これまで私は父と母のおかげで、世間の荒波に揉まれることもなく、小説を書いてだけいればよかったけれど、この時期の私は野球でいえば、独りでピッチャーもキャッチャーも、ショートも外野もチケット売りまでこなしているようなものでした。そんな中、やっとの思いで書き上げたのが3話目の「去年今年」。その登場人物の姿に、母のために来てもらった家政婦さんの姿をちょっと重ねたりもしました。
でも家族のかたちが変わって、改めて小説が自分の支えになってくれることに気がつきました。意地を張りながら、女所帯で口入れ屋を気丈に続ける主人公のおこうを、何とか幸せにしてやりたい――私はこれまで石橋を叩いても渡らない性格で、その分身である登場人物もうじうじ悩み、結局何もせずに終ってしまうことが多いんですけれど、自分の身に波乱万丈が起こって1回きりの人生ならば、何をやってもいいんじゃないかっていうエネルギーが沸いてきました。
タイトルの『起き姫』は、福島の三春町に江戸時代から伝わる、可愛らしい、鄙びた起き上がりこぼしです。東北の震災後、たまたま眺めていた雑誌で目に留まって気になっていたんですが、偶然、別の雑誌の投稿欄でも三春町の起き姫に触れられ、「人形と同じように故郷も起き上がってほしい」と書かれていたのを読みました。2回続くと何か運命的なものですよね。そこで三春から早速取寄せて、執筆中はこの温もりある起き姫を転がしては起き上がらせて、自分で自分を励ましていました。それとよく聞いていたのが「ロッキー」のテーマ曲(笑)。
とにかくこのシリーズを書き終えて、私は強くなったとまでは言えないかもしれませんが、確かに変ったと思います。以前にはなかったものが詰まった、本当に大切な1冊になりました。
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