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『羊と鋼の森』に感動の声。読者が選んだ「私が好きなこの一文」

文: 「本の話」編集部

『羊と鋼の森』 (宮下奈都 著)

 2016年の「本屋大賞」第1位に選ばれた宮下奈都さんの『羊と鋼の森』は、静謐で美しい文章と、調律師として理想の音を追い求める主人公の青年の姿に、共感の輪が広がりました。その結果、2016年上半期の小説ベストセラー第1位に。  読者の方は、この作品のどこに感動したのでしょうか。『羊と鋼の森』で最も好きな一文(80字以内)を募集したところ、多くの投稿をいただきました。

『羊と鋼の森』(宮下奈都 著)

誰のための仕事か? 誰のための音なのか?

 どんな音を求めて調律するのか、外村は迷いながら道を探します。次は、「目指す場所」についての柳の言葉です。

「聴く人のためにも存在しているんです。音楽を愛するすべての人のために」事務所がしんとなった。(P.34)

「名門など関係なく、自分たちの目指している場所はどこなのか、しっかりと柳さんが示している。その真面目な空気を秋野さんがからかうような一言を言ったことで事務所のいい雰囲気が出ていて、とても面白いシーンになっている。すごく自分の中でお気に入りのシーンです」(青森県 18歳 男性)

 この小説のなかには、音を味に例えた表現も度々出てきます。

最初のひとくちで印象に残るように味を濃くするのは、誰が食べるかわからないからだ。誰が食べるのかわかっていれば、その人のおいしさに合わせてつくることができるはずだ。(P.123)

「調律の仕事は、演奏する誰かの要望を聞くためには一足でそこにいってはだめなのだ。一歩ずつ、一足ずつ、確かめ足跡を目印にしながら間違えたら遡る。そうやって目指す方へ向かい、希望を聞き叶えることが出来ると外村君は気がついていく。その時にふと『評判のラーメン屋が』と閃いた一文が素晴らしく的確な表現で好きになった」(長野県 46歳 女性)

 お客さんの個性も様々。目も合わせてくれない無口な客が調律した後に弾いた子犬のワルツを聴いて、外村は心からの拍手を送ります。

うれしそうに弾いているのがよく伝わってくる。ときどき鍵盤に顔を近づけて、何か口ずさんでいるようにも見えた。こういう子犬もいる。こういうピアノもある。(P.145)

「私たちが生きていく上では、嬉しく、楽しいことばかりではなく、辛く、苦しいこともたくさんあって、でも誰もがそれぞれに希望をもっている。そのことを誰に否定されることも肯定されることもなく、ただ生きる。それに気づかされた一文でした。『こういう人生もある。こういう人もいる』そう言い換えられる気がして。これからの人生の大切な一文になりました」(埼玉県 33歳 女性)

 顧客のなかでも、高校生の双子の姉妹は、外村に大きな影響を与えます。姉の和音は、姉妹が思わぬ困難に直面したあと、こう言います。

「ピアノを食べて生きていくんだよ」(P.175)

「『ピアノで食べていく』や、『音楽で食べていく』とは良く言うけれど『ピアノを食べて生きていく』という言葉を聞いたのは初めてで、初めてでしたが、心にストンと入ってきました」(宮城県 16歳 女性)

「ピアノへの執着心が露骨なまでに描かれた一文で、和音の純粋無垢な『凛とした声』『紅潮した頬』『黒く光っていた瞳』に利発な少女の将来の可能性を窺わせるわくわくする一文として心に残る好きな文章です」(神奈川県 77歳 男性)

和音の奏でる音楽が、目の前に風景を連れてくる。朝露に濡れた木々の間から光が差す。葉っぱの先で水の玉が光って零れる。何度も繰り返す、朝。(P.238)

「新しいピアノの音が生まれて来る感じと、森の朝の新鮮さが同じ美しさなんだと思いました。体育館で板鳥さんと出会った時も『零れてくる』を使われていたので、印象に残りました」(京都府 52歳 女性)

 

 他にも、この小説には、様々な素敵な言葉や描写が綴られています。ご紹介しきれないほど、たくさんの投稿をいただきありがとうございました。

 まだ未読の方は、ここに挙げた文章が、どんな文脈で書かれているのか、ぜひ読んで確かめてみてください。また、あなたにとっての素敵な一文を見つけていただければ幸いです。

羊と鋼の森宮下奈都

定価:本体650円+税発売日:2018年02月09日


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