- 2008.05.20
- 書評
「面白い時代」の立役者が語る「生きた経済学」
文:若田部 昌澄 (早稲田大学政治経済学術院教授)
『霞が関埋蔵金男が明かす「お国の経済」』 (高橋洋一 著)
ジャンル :
#政治・経済・ビジネス
また本書はそうした政策立案の達人による「生きた経済学入門」でもある。普通生きた経済学というと、教科書にあるような標準的な経済学に対する批判や反発が語られることが多い。ことに実務家には理論を必要以上に敵視する傾向がみられる。
高橋氏の考え方は、そういう世間一般の傾向とはまったく正反対である。むしろ、簡単な経済理論がわかれば複雑な現実経済はよくわかるという。
とはいえ本書には入門書の多くに見られる教科書くささはまったくない。高橋氏のアプローチは具体的な問題から入り、簡単な概念でもっとも頑健な論理を構築し、実際的な解を導き出すというものだ。いうまでもなくこれは、数学者のアプローチでもある(高橋氏は東京大学理学部数学科の卒業)。彼の関わる政策は――きわめて残念なことながら――政治の世界においては圧倒的に少数派の立場に置かれている。少数派は論理によって自らを守らなければならない。そのときに使える最も強力な武器が経済学であるということだ。
たとえば道路特定財源と暫定税率をめぐる与野党間の対立がある。これを経済学ならば入門書に出てくる「ピグー税」という考え方を使って整理したところなどは明快極まりなく、知的な爽快感すら覚える。まさに「生きた経済学入門」である。
そして本書は、現在進行形の歴史の証言でもある。高橋氏の関わっていた政策の多くは、いまだに決着をみたわけではない。「霞が関埋蔵金」の話もこれからが本番だし、道路特定財源と暫定税率の取り扱いもこれからが山場だ。
しかし、長期的に見て影響力がもっとも大きいのは公務員制度改革と地方分権改革だろう。これらはこれからの日本という「国のかたち」を決定づけることになる。
「国のかたち」についての高橋洋一の基本思想は何か。それは一言でいえば民間を重視し、政府や官僚はできるだけでしゃばらない「小さな政府」論だ。もちろん、政府の役割はある。国防、外交、そして中央銀行による金融政策は中央政府の役割になる。また公共事業は道州制によって分権化された地域政府の責任になる。
こういう高橋氏の議論に異論がある人もいるだろう。そういう人にこそ本書を読んで、そして議論をしてもらいたいと思う。
四月二十三日に発表された自民党国家戦略本部の提言では、本書の「国のかたち」が大幅に取り入れられている。高橋氏の影響力は無視できないように思われる。これから先も当分「面白い時代」が続くだろうし、そこには政策立案者高橋洋一がいるという予感がする。この時代の瞬間を鋭くかつ軽妙に切り取った本書は、今こそ読まれるべきであろう。
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