課題は老人の介護だけではない。我々は、支える側の取材もした。14年4月に8%に上がった消費税率はまだ上がり、介護、医療、年金の各保険料はこれからも上がり続ける。すでに老後はカネ次第の様相だが、将来の老人たちは目先の生活が精いっぱいで、貯蓄をする余裕がない人が増えている。
国民健康保険には、正社員が入る協会けんぽや健康保険組合に入れない非正規労働者と失業者が多く、本来の加入者とされる自営業者は一部でしかない。収入が安定しない人たちは保険料を滞納することも増えている。自治体によっては、この人たちに厳しい差し押さえをしていた。中には子ども手当が支給された日に銀行預金を差し押さえたり、生命保険を差し押さえて解約すると通告したりする自治体がある。
正社員なら、足の骨を折って手術をすれば、生活のことを心配せずに治療ができる。ところが、時給のパート労働者は「休むと収入が減る」と、前倒しで退院して働いていた。「保険料や税金を払うために働いているのではないかと思うことがあります」と話すのを聞いた記者は、返す言葉を失った。この人たちは老後に希望をもてるのだろうか。
今後、年金で買えるものは減っていくばかりだ。基礎年金は、現在の物価で考えると月額4万円程度の価値しか持たなくなる。今でも基礎年金は生活保護よりも少ないため、年金をもらっていても生活保護を受ける人が多い。生活保護を受ける高齢者は増え続けている。
『下流老人』(朝日新書)を書いたNPO法人「ほっとプラス」の藤田孝典代表は「高齢者は海外旅行に出かけるなど恵まれている姿が描かれがちですが、それは一部の人です。生活に困っている人は声をあげられない。もっと現実を知ってもらいたい」と話す。我々の取材でも、すでに「地獄」のような生活を送っている老人は珍しくない。
今後、少子高齢化が進むと、高齢者1人を支える現役世代の数は、今の半分程度まで減ると試算されている。放置すれば今以上に深刻になることは間違いない。この本は、「報われぬ国」の連載に大幅に加筆したり、新たに加えたりして作った。記者4人で始めたが、1年3カ月の連載期間中に19人の記者が参加して、日本中を歩き回ってルポをした。対策は難しいが、我々なりに模索もした。この本を読んで、高齢化社会の行く末を考えるきっかけにしてもらえたらありがたい。
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