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公開座談会<br />角田光代×奥泉光×鵜飼哲夫「芥川賞、この選評がおもしろい」

公開座談会
角田光代×奥泉光×鵜飼哲夫「芥川賞、この選評がおもしろい」

第150回記念芥川賞&直木賞FESTIVAL


ジャンル : #小説

【第81回】村上春樹に注目した丸谷才一

〈受賞作〉重兼芳子『やまあいの煙』/青野聰『愚者の夜』

〈候補作〉立松和平『閉じる家』/村上春樹『風の歌を聴け』/北澤三保『逆立ち犬』/増田みず子『ふたつの春』/玉貫寛『蘭の跡』/吉川良『八月の光を受けよ』 昭和54年7月18日、銓衡委員会

鵜飼 芥川賞については、「取らなかった作家」という見方もありますね。第1回の太宰治をはじめ、『山月記』の中島敦、『いのちの初夜』の北條民雄も織田作之助も取ってない。一番大きいのは、村上春樹さんです。

 第81回の候補作に『風の歌を聴け』が入っています。村上作品について、ほとんど触れていない選考委員が多いなかで、丸谷才一さんが評価しています。

〈村上春樹さんの『風の歌を聴け』は、アメリカ小説の影響を受けながら自分の個性を示さうとしてゐます。もしこれが単なる模倣なら、文章の流れ方がこんなふうに淀みのない調子ではゆかないでせう。それに、作品の柄がわりあひ大きいやうに思ふ。〉

 のちに村上春樹さんを高く評価する大江健三郎さんは、名前を挙げずに批判している。

〈今日のアメリカ小説をたくみに模倣した作品もあったが、それが作者をかれ独自の創造に向けて訓練する、そのような方向づけにないのが、作者自身にも読み手にも無益な試みのように感じられた。〉

 かなり厳しいですが、お2人は、どう読まれますか。

角田 まったく触れない作家がいて、否定している作家がいて、認めている作家がいる。評価が大きく分かれた回なんだなというのが印象深いです。その大江さんが、次に候補になったとき、村上春樹さんを褒めているのも、非常におもしろいですね。

奥泉 何本か候補作を読むと、「あ、この人はこういうことをやろうとしてるんだ」って見えてくる場合がある。2回目で大江さんは納得して、評価が変わったということでしょう? あと何回か候補になれば、評価する選考委員が増えて、受賞に至った可能性が高いと思いますよ。

鵜飼 3作目が『羊をめぐる冒険』という長篇で、これで野間文芸新人賞を取っちゃうわけですからね。

奥泉 ただ、野間文芸新人賞を取ったあとに芥川賞の候補になることもいくらでもありますよね。その次に短篇を書いたとき、候補に……まあ、ご本人が候補にしてほしくないということもあったのかもしれないけど。

鵜飼 ご本人は、2回で卒業、という気分になったと書かれていますね。では、先ほど角田さんがおっしゃった、『1973年のピンボール』で第83回に候補になったときの大江さんの選評をご紹介しておきましょう。

〈カート・ヴォネガットの直接の、またスコット・フィッツジェラルドの間接の、影響・模倣が見られる。しかし他から受けたものをこれだけ自分の道具として使いこなせるということは、それはもう明らかな才能というほかにないであろう。〉

 

新鮮で明るい小説が注目されてきた

鵜飼 最後にお2人にお伺いしたいのは、芥川賞が新人の賞である、ということについて、です。歴史小説の大家である吉村昭さんが、読売文学賞が決まって床屋さんに行ったら、「先生、おめでとうございます。次はいよいよ芥川賞ですね」と言われてガックリしたというエピソードがあります。有名な賞ではあっても、あくまでも新人賞なんですね。

 では、新人とはなんなのか。昔、田中康夫さんが、新人とは「若者でバカ者でよそ者」であると言った。社会や、大人や、選考委員から顰蹙を買ってこその新人だ、ということなら、すぐに評価されづらいこともあるでしょう。そこをどうやって捕えていくのか。これからの芥川賞、これからの文学を、書き手として、選考委員としてどう作っていくのか。文学の新しさと芥川賞についてお聞かせください。

奥泉 いや、僕はそういうロマンチックな感覚はありません。若者だから斬新な感覚を持つなんて、全然思わない。年齢は関係ないし、絶えず新しい者が出てきて古いものを打ち破る、みたいなドラマチックな物語を、まったく信じていないんです。そういう意味では選考委員に向いていないのかもしれない。僕より、元都知事のほうがよかったんじゃないかな(笑)。

角田 (笑)。

奥泉 今、芥川賞ってすごくジャーナリスティックな賞になっていて、でも、そのジャーナリスティックなものを支えているのは、今おっしゃったような、一種のロマンチックな感覚なんですよね。それが今後も再生産されていくのかなとも思うけど、しかし僕個人としては、とにかくこういう小説が読まれてほしい、こういうものが評価されてほしいという自分の思いに忠実になるしかない。でもまあ、僕のようなジャーナリスチックな感覚を欠いた選考委員が何人かいても、しぶとく続いていくような予感を持ちますね。

鵜飼 とにかく芥川賞は選考委員が多いですからね。

奥泉 ちゃんとロマンを担ってくださる選考委員もいるので、大丈夫だと思います。

角田 選評をずっと読んでみて、新鮮な作品に注目が集まる、ということを感じました。それは、作者の年齢ではなくて、作品が放つ新鮮さだと思うんですが、もう一つおもしろいなと思ったのは、明るい小説が一貫して求められていることです。嫌な思いをさせる小説ではなくて、明るい小説。私も直木賞をいただいたときに、「次、芥川賞だね」ってたくさんの方に言われましたので、これからは新鮮で明るい小説を書いてみようかなと思います(笑)。

(2014年3月2日「第150回記念芥川賞&直木賞FESTIVAL」丸ビル1階「マルキューブ」にて)

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