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『真夜中の相棒』解説

『真夜中の相棒』解説

文:池上 冬樹 (文芸評論家)

『真夜中の相棒』 (テリー・ホワイト 著 小菅正夫 訳)

出典 : #文庫解説
ジャンル : #エンタメ・ミステリ

 ただ矛盾するようだが、作者が同性愛の文脈を作りあげていることは事実としても、前述したように作者の狙いはもっと広い無償の愛にあるだろう。マックとジョニーが出会ったころ、マック(本名アレグザンダー・マッカーシー)は三十五歳で、ジョニー(本名ジョン・ポール・グリフィス)は二十七歳。八歳しか違わないのに、兄と弟というより父と息子のような関係である。小説ではその六年間が描かれるのだが、読んでいくうちにマックの母親が精神病院で亡くなったことが語られ、精神障害を疑われるジョニーを病院送りにすることを拒絶する理由もわかってくる。意外に華々しいジョニーのハイスクール時代のことも語られて、逆に戦争で傷ついたジョニーが痛々しく見えてくる。

 ジョニーがささいなことで警察につかまったとき、被害を訴えた男に向かって隣室に住む老女が、ジョニーは“あんたのために戦っていた兵隊さんだったんだよ。戦争にいって頭が少し病気になったからって、あの子が悪いのかい?”(九二頁)といい、マックも“適当に戦争をやり過すことのできる人間もいます。できない人間もいる。ジョニーは不向きだったんです”(九四頁)と弁護する。悲惨きわまりないヴェトナム戦争での後遺症、それはアメリカ人ひとりひとりの罪と悔恨と許しを求めるものであるが、この避けがたい人の精神を破壊する出来事は、東日本大震災を体験した日本人にも近しいだろう。未曾有の悲劇を経験して心を深く閉ざしたジョニーは決して他人ではないのである。


『真夜中の相棒』を読んでいると、人物たちの不安で、孤独で、寂しいありようが、しんしんと伝わってくる。生きがたく、不器用で、ねじれたまま、何かしら流されていくしかない人生の混沌とした手触りが、たまらなくいとおしく感じられてくるのである。もちろんミステリであり、殺し屋たちの生き残りと刑事の追及がどのような結果をもたらすのかも興味をそそるし、ゲイの文脈に関心のある人たちには“萌える”ポイントがいくつもあるだろうけれど、いま読み返すと、逼迫した状況のなかで怒りと苦痛と孤独を感じて生きる者たちの愛を希求する物語として、実に力強い。いつの時代にも“現代性”をもつのが“名作”の条件かと思うが、『真夜中の相棒』もまた、その例にもれないだろう。ぜひ名作を味わっていただきたいと思う。


 さて、以下は余談になる。小説のなかでジョニーは映画やテレビを熱心に見ている。戦場で傷ついた神経を休めるには古い映画やテレビドラマが最適なのかと思うが、作者はさりげなく、映画やドラマを通してジョニーの心理を語らせている。煩雑にならない程度に、要所に出てくる作品を紹介したい。

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真夜中の相棒
テリー・ホワイト・著 小菅正夫・訳

定価:790円+税 発売日:2014年04月10日

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