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『真夜中の相棒』解説

『真夜中の相棒』解説

文:池上 冬樹 (文芸評論家)

『真夜中の相棒』 (テリー・ホワイト 著 小菅正夫 訳)

出典 : #文庫解説
ジャンル : #エンタメ・ミステリ

 まず、ジョニーがマックの復讐に乗り込むときに、拳銃をベルトにはさんで、“スティーヴ・マクギャレットみたいだと思った。あるいはマット・ディロンみたいだと”(一〇六頁)なぞらえる場面があるが、二人ともテレビドラマのヒーローである。スティーヴ・マクギャレットは、一九六八年から八〇年まで続いた『ハワイ5.O(ファイブ・オー)』でジャック・ロードが演じたハワイ州知事直属の特別捜査班のリーダー。マット・ディロンも、テレビの西部劇『ガンスモーク』(一九五五年から七五年までの二十シーズン続いた西部劇最長テレビドラマ)でジェームズ・アーネスが演じた保安官の名前である。この二人の名前からもわかるように、ジョニーにとっては正義の遂行である。


“この前、テレビのインタヴュー番組で鬼警部のアイアンサイドを見たんだけど、車椅子なんかに乗ってませんでした”(一七一頁)は、半身不随で車椅子に乗った刑事アイアンサイドのことである。テレビドラマ『アイアンサイド』は、一九六七年から七五年まで制作された刑事ドラマで、日本では『鬼警部アイアンサイド』として放映された(実に面白い刑事ドラマだった)。ジョニーの台詞にはハンディキャップをもったヒーローへの憧れがある。肉体と精神の障害の違いはあれ、同類意識をもっていたのだろう。

 マックとジョニーの関係が落ち着いたときに出てくるのが、ハンフリー・ボガートの映画である。“ボガートです。例のトラック運転手のやつ”(一九一頁)とあるのは、『夜までドライブ』(一九四〇年。監督ラオール・ウォルシュ。主演ジョージ・ラフト)。長距離運転手の兄弟(ラフトが兄、ボガートが弟)が居眠り運転で事故を起こし、やがて殺人事件に巻き込まれる話で、その過程で兄と弟が自ら愛する者とつながりを確かめる。これはジョニーの充たされた精神状況の表れでもあるだろう。それはマックも同じで、ヴェトナムの戦場から“六年の歳月を経て、彼はジョニーに慣れっこになっていた”(一九五頁)とある。マックは四十一歳、ジョニーは三十三歳になっている。


 第一部の最後、“ゆうべはいい映画を見ましたよ”(二〇九頁)とジョニーが語るのは『荒野のストレンジャー』(一九七二年。監督・主演クリント・イーストウッド)だろう。町の人々に見殺しにされた保安官の霊が流れ者(イーストウッド)に憑依したような形で、無法者たちを次々に殺していく。流れ者は決して清廉潔白ではなく、因縁をつける男たちを殺したり、女を無理やりものにしたりするが、無法者を倒す正義の男でもある。殺しの仕事を次々にこなして、正義も不正義も悪もないジョニーには、自己を投影できる、ある種の屈折したヒーローに見えたのかもしれない。

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真夜中の相棒
テリー・ホワイト・著 小菅正夫・訳

定価:790円+税 発売日:2014年04月10日

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