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『真夜中の相棒』解説

『真夜中の相棒』解説

文:池上 冬樹 (文芸評論家)

『真夜中の相棒』 (テリー・ホワイト 著 小菅正夫 訳)

出典 : #文庫解説
ジャンル : #エンタメ・ミステリ


“彼は《マッシュ》を見ながら、モーテルの部屋に坐ってマックがハンバーガーを買って戻ってくるのを待っていた”(三四九頁)。『MASH』(一九七〇年。監督ロバート・アルトマン)は朝鮮戦争時の米軍の野戦病院を舞台にしたブラック・コメディで、後にテレビドラマ化された。おそらくテレビドラマ版だろう(放映は一九七二年から八三年まで)。舞台が朝鮮戦争とはいえ(ヴェトナム戦争の寓意ともいわれた)、戦場で神経症を患った男が戦争のドラマを楽しめるほどに気分が安定したということか。


 新たな殺しの仕事が入り、待機しているときに、ジョニーは、“ランドルフ・スコットの映画を見ていた”(三八九頁)。これは『昼下りの決斗』(一九六二年。監督サム・ペキンパー)のことだろう。友情で結ばれた二人の男が金塊を輸送する仕事を引き受けて悪党たちと戦い……という話である。タイトルをあげないのは、物語の結末の伏線となってしまうからだろう。


 作者のテリー・ホワイトは一九四六年カンザス州トピーカ生まれ。いくつかのカレッジを中退して、ソーダファウンテンの売り子、ウェイトレス、ファイル整理係などを経て、一九八二年に『真夜中の相棒』で作家デビューを果たした。そのあとも異常性格でゲイの殺人者と刑事の戦いを描く『刑事コワルスキーの夏』(八四年)、ヴェトナム帰りの奇妙な友情に結ばれた三人の男が破滅への道をたどるコワルスキー刑事ものの第二弾『リトル・サイゴンの弾痕』(八六年)、引退を決意した殺し屋と彼を追及する刑事の物語『殺し屋マックスと向う見ず野郎』(八七年)、元刑事と元泥棒、そして強奪計画を練る元ムショ仲間が交錯する『悪い奴は友を選ぶ』(八八年)、家出した少年が殺し屋と出会う『木曜日の子供』(九一年)を発表している。

 そのほかには、スティーヴン・ルイス名義で、ゲイの私立探偵ジェイク・リーバーマンを主人公にした『カウボーイ・ブルース』(未訳。一九八五年)があるのが判明しているが、それ以外の著作は不明である。

 本書『真夜中の相棒』が気に入ったなら、本書と同じくヴェトナム戦争と同性愛的雰囲気の濃厚な『刑事コワルスキーの夏』『リトル・サイゴンの弾痕』がお薦めである。コミカルな味わいを示す『殺し屋マックスと向う見ず野郎』『悪い奴は友を選ぶ』も意外とのびやかで愉しいし、微妙に屈折した男たちの孤独の軌跡が交わるときに生まれる“束の間の火花のような心理劇”(村松潔)というホワイトらしさのある『木曜日の子供』も悪くない。

 なお、『真夜中の相棒』は一九九四年にフランスで映画化されている。原題 REGARDELES HOMMES TOMBER(「堕ちていく男たちを見ろ」)で、邦題は『天使が隣で眠る夜』。監督はジャック・オーディアール。ある殺人事件を契機に、賭博師のマルクス(ジャン=ルイ・トランティニャン)と青年ジョニー(マチュー・カソヴィッツ)の行方を初老のセールスマン(ジャン・イアンヌ)が追跡するという物語である。

 また『殺し屋マックスと向う見ず野郎』も、その二年前の一九九二年に映画化されている。原題MAX & JEREMIE、邦題『危険な友情 マックス&ジェレミー』で、メガホンをとったのは女性監督のクレール・ドヴェール。主演はフィリップ・ノワレとクリストファー・ランバートである。

真夜中の相棒
テリー・ホワイト・著 小菅正夫・訳

定価:790円+税 発売日:2014年04月10日

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