- 2015.04.05
- インタビュー・対談
本の愉しみ――読む、書く、作る
『アンブラッセ』刊行記念・ロングインタビュー
烏兎沼 佳代
『アンブラッセ』 (阿刀田高 著)
ジャンル :
#エンタメ・ミステリ
――アイデア帳はいつごろからつけていらしたのですか?
『冷蔵庫より愛をこめて』(1978年)や『ナポレオン狂』(1979年)のころからです。“備忘録”と名づけて、今、17冊目になります。
――国立国会図書館におつとめのころから?
いや、退職後です。わたしは本当は文章を書くのが嫌いなんです(笑)。小学生のころから、自宅には蔵書がたくさんあったので読むのは好きでしたが、作文、日記は嫌いでした。
――では、なぜ作家に?
実に明快な話で、国会図書館の月給が安かったからですよ。両親もなく、家もなく、四畳半のアパートを借りて暮らしていたのですが、それでもお金が足りない。しょうがないから小遣い稼ぎが何かないかときょろきょろしていたら、ちょこちょこ書く仕事があって、いくばくかのお金をいただいて、その喜びからこの世界に入りました。もし国立国会図書館がちゃんとした月給をくれていたら、小説家にならずに、図書館員で一生を終えたでしょう。文学が好きで小説をよく読んでいましたが、自分が実際に小説家になるまで、職業にするとは思っていなかったですね。
――図書館ではどんなお仕事を?
いちばん長く担当したのは本の分類係です。日本十進分類法にのっとって、1冊1冊に、マルクス経済学は331・6、日本の小説は913・6、電子工学は549・1、といった具合に番号をふるんです。国会図書館は納本図書館ですから週に300冊くらい本がとどく。その本に内容にしたがって番号をつけていきました。たとえば『冷蔵庫より愛をこめて』などは、あわてものの図書館員が料理に分類してしまう可能性がなきにしもあらずだけれど、それはよほどとぼけた図書館員ですね(笑)。
分類は、6年半やりました。分類係は少数精鋭主義、係長一人、私一人だけでした。係長はチェックしかしなかったですから、6年半は日本で出版されたすべての本に、ひとりで番号をつけたことになります。
自分が格別物知りだったとは思わないけれど、世の中には知らないことがたくさんあると、最初の1カ月で痛感しました。便利なことに、解説本は書庫に入ればすべてそろっていますから、たとえばお経には大蔵経目録という分類書があるとか、キリスト教なら出版社を見れば宗派がわかるとか、つまり、ドン・ボスコ社ならカソリックだな、などとすぐにわかるようになりました。
こういう仕事ですから、『風と共に去りぬ』を1ページ目から延々と読むわけにはいかないけれど、仕事中に本を読んでいても一向に構わないわけで、適当な本をめくっていると、時々おもしろい一節にも出会えます。サンジェルマン伯爵もそのひとつです。岩波の人名事典にもちゃんと載っている実在の人物で、「自分はシーザーにも会った、ナポレオンにも会った」と吹聴する不老長寿の貴族でした。ちょっといかがわしくてそれなりの業績を持っている、そんな人の話が書いてあると、(おもしろそうだな)と盗み読みしたことが、小説家になってから役に立っています。
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『赤毛のアン論』松本侑子・著
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