- 2015.04.05
- インタビュー・対談
本の愉しみ――読む、書く、作る
『アンブラッセ』刊行記念・ロングインタビュー
烏兎沼 佳代
『アンブラッセ』 (阿刀田高 著)
ジャンル :
#エンタメ・ミステリ
――『冷蔵庫より愛をこめて』につづく2度目のノミネートで受賞なさいましたが、受賞の連絡はどちらで待っていらっしゃいましたか?
自宅です。1回目はとらないと思っていて、とにかく候補になったこと自体がうれしかったですね。というのは、当時、私の小説はとくべつ妙な小説だったんです。選考委員の方々に目をかけていただいて受賞できて、10年、20年つづけてきた今では、不思議な小説ではなくなりましたけれど、ノミネートされたときは(えっ、いいの? 直木賞はチャンバラとか人情で読ませる小説じゃないの?)と思いました。なにしろ、傾向として似ている星新一さん、筒井康隆さんが直木賞の門の前まで来てもバチンと門を閉ざされていましたから。
ところが、きつい批評で有名だった百目鬼恭三郎さんに、「星さん、筒井さんとくらべて、阿刀田の作品にはすこし湿ったところがある。直木賞は湿ったところがないとだめなんだ」と書いていただきました。たしかに、新刊の『アンブラッセ』にも、少し湿ったところがありますね(笑)。いちばん評価してくださったのは新田次郎さん、城山三郎さんもそうでした。
自分が選考する立場になって発見したことがあります。それは、新人を評価するのは編集者がいちばんすぐれている、けれど、書き手の方がいい目をもてる場合もある、ということです。候補作を読んでいると“おれには書けない”と思う作品に出会うときがあるのです。編集者はこれまでの経験値で考える、物書きは“自分とはあきらかに違う何かをもっているな”と直感する。それが大切な視点です。
古いつきあいの編集者にそんな話をしたら「それだ! 新田さんはそう思ったんだ」と膝を打ちました。今にして思えば、新田さんは私の候補作を読んで「おれには書けない」と思ったのかもしれません。新田さんはわずか3回しか選考委員をしていなくて、着任して2度目の選考会で私を推してくださって、次は受賞者なし。ですから、新田さんは私に賞をあたえるために選考委員になったような方。いまだに新田家に足を向けて寝られません。ま、息子さんの藤原正彦氏は高校の後輩なので、顔を合わせると「おれは先輩だぞ」という顔をしていますけどね。(笑)
――ご著書の中で、とくに印象に残る本はどれでしょう?
『ナポレオン狂』『冷蔵庫より愛をこめて』ですね。とくに『冷蔵庫~』が出るまでは、1年半もかかりました。1冊分作品が書きたまって、「このうちの4つが、もう少し良くなるといいですね」と編集者に言われて、また雑誌に必死に書いて、(もう大丈夫かな)と思っていると、「前の6つのうちの2つがね~」という話になる。すぐに出してくれそうでなかなか出してくれませんでした。「大丈夫だ、大丈夫だ」で引き延ばされて(ああ、結婚詐欺ってこういうものか)と思ったなあ(笑)。
「知っていますか」シリーズも、『ギリシア神話を知っていますか』が150万部売れたのでよく覚えているし、10年以上前に出した『コーランを知っていますか』もここにきてまた売れています。
『アンブラッセ』も、短編の連載はしばらくぶりだったので、依頼をいただいたときに「どうやって書くんだっけな」と思ったことが印象に残っています。
アンブラッセは、本来「抱擁する」、日常では「接吻する」という意味です。状況によって、軽い「ハグ」か、あつい抱擁か、ベッドを共にしているか、などと意味が変わってきます。編集担当者にこのタイトルを提案されて、(好きな言葉だし、いいタイトルだな)と思いましたね。
――「本を作りたいがどうしたらいいか?」という相談をうけることはあるでしょうか?
何度かありました。自分の本ができた歓びは、ほんとうに深いものがあります。今の時代、自分の意に合う出版はなかなかできないですから、自分が作りたい本をこの世に遺す、自分の生きてきた道筋を本をつくりながら考える、このふたつに自費出版をする意味があります。慎重に考えて、本をつくるためのよきパートナーを見つけることは大賛成です。本当にいいものをつくろうとしたらタダではできないですからね。
――51年前、初のご著書(『ころし文句』共著 1964年)を手にした時はどんなお気持ちでしたか?
とにかくうれしかったですね。今でも自分の本ができて、編集担当の方にお持ちいただくと、その時と同じ気持ちになります。
――ショートショートの1000作達成を楽しみにしております。本日はありがとうございました。
*2015年2月8日 八重洲ブックセンター本店にて
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『赤毛のアン論』松本侑子・著
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