札幌駅で待ち合わせて、遠慮なく北海道弁炸裂で自虐ネタを披露しあったり、カラオケボックスに四時間立てこもりLUNA SEAの物まねやシャウト系歌唱曲を披露し合いながら、わたしたちはしかし仕事の話というのをほとんどしない。面倒な会話などせず、ひたすら声が嗄れるまで笑って歌うことに専念する。
いろいろ出てくるお年頃なので、健康診断を受けようか、などとたまにはお互いの体調について相談し合うこともあるのだが、痔の調子が悪いというワタシを気遣うメールの一文は、彼女の愛すべき性分を如実に物語る。
「姐さん、早めに肛門科に行ったほうがいいよ。わたしも行く」
ばっこし(北海道弁で、がっちり、あるいはしっかり、の意)筆名が入った某団体の健康保険証を持つ我々に、肛門科はあまりにも敷居が高い。しかし、自分も行くから姐さんも行け、と彼女は優しく説くのだ。「わかった、行ってみる」と返信してから何年経ったろう。ルカちゃんすまん、まだドラッグストアで買った座薬でごまかしてるんだ。許してくれ。
本書『ばくりや』には「隣の芝生が青く見える」人の世の現実が余すところなく描かれている。青々とした芝生を持った隣人も、そのまた隣の芝生を見て「向こうの方が青い」と思い、その隣人は自分が手入れをしてきた芝生の青さが気に入らない。端に立ってずらりと並べて見ればみなただの「芝生」なのだが、なかなかそうとは思えないからこその「隣の芝生」。
持って生まれた厄介なものは、誰にでもあるんだろう。本書を読んでいると、己のつまらないコンプレックスは、本当につまらないものかもしれないと思えてくる。そして本を閉じるころには、著者に優しく口説かれているような気がするのだ。
「お互いいろいろあるけどさ、自分を大切にしてりゃあ間違いないよ」
細くてちっこいお姫様は今日も鋭い角度からひとを観察し、同時にひとを赦している。
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『赤毛のアン論』松本侑子・著
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