――沼田のドライブインの場面は、とても切ないできごとでした。
浅田 この小説にはドライブインを登場させたかったんだ。昔はドライブインが一つの文化で、メニューも雰囲気もそれぞれ個性があった。特に沼田の辺りはルートが合流するから大きなドライブインがいっぱいあったんです。でも今の高速のサービスエリアはメニューも造作も同じで個性がないよ。
――うって変わって「ブルー・ブルー・スカイ」はラスベガスの場末のグロサリー・ストアでビッグヒットを出してしまった中年男性がある事件に巻き込まれ……というユーモア溢れる短篇です。
浅田 僕には編集者の言うことを素直に聞くっていう習性があって、これは「破天荒なものを書け!」という編集者の命令で書きました。ラスベガスは負けた人にすごく良くしてくれるんです。負ければ負けるほどホテルのレストランがタダになったり、空港に鯨みたいなリムジンが迎えに来て「ウェルカム、ミスター・アサダ!」って言われて、またこいつ金落としていくぞと丁重に扱ってくれる(笑)。
――長年のラスベガスのご経験が活かされたわけですね(笑)。浅田さんといえばカジノだけでなく、無類の温泉好きとしても知られていますが、「九泉閣(きゅうせんかく)へようこそ」では廃れかけた温泉宿が舞台です。
浅田 温泉は好きですねぇ。いつか浅田次郎温泉小説アンソロジーを作りたいですね。温泉にはロマンチシズムを感じますし、ゆったりと解放される感じがたまらなく好きです。現代社会の忙しさはロマンチシズムを奪ったと思う。そういう意味では温泉行ってボーっとしている時間というのはロマンチックで豊かな時間です。温泉は、我々がここ20年の間にすっかり喪失してしまった和食や畳での生活や着物など、日本文化の保存装置だと確信しています。
ここにある6篇というのは6人の僕の子供たちですから、思い入れのある作品はと問われても、どの子がかわいいって聞かれるのに似ていて答えるのは難しいですね。短篇小説を書くときは違った味わいのあるものを書こうと心がけているので、それぞれ楽しんでいただければと思います。
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