- 2015.01.05
- 書評
舞台は首相官邸! 超人気シリーズ『警視庁公安部・青山望』の著者が極限のリアリティで、権力の舞台裏を描く
文:濱 嘉之
『内閣官房長官・小山内和博 電光石火』 (濱嘉之 著)
出典 : #文春文庫
ジャンル :
#エンタメ・ミステリ
警視庁公安部出身の濱嘉之さんによる新シリーズが始動します。主人公は内閣官房長官。圧倒的なリアリティをもって官邸を描きだす本書の注目ポイントを先日、小社で行われた「文藝春秋出版企画発表会」で語っていただきました。
どうも、皆さん、こんにちは。濱嘉之でございます。
先程ご紹介いただいたとおり、私は、22年間、警察官を務めまして、それから辞めて10年経って、小説を書き始めたわけでございます。ですから、作家としての諸先輩方、先ほど登壇された夢枕獏先生が「作家生活30年」ということを仰っていましたが、それには到底及びませんで、まだ小説を本格的に書き始めて4年ほどしか経っておりません。
それでも、明日、新刊(『オメガ 対中工作』講談社文庫)が出ますので、この4年間で16冊の本を出したことになります。一方で、一読者としても、いろいろな方々が出されている警察小説を読ませていただいておりますが、元警察官としては、どうしても中には“うーん、ちょっと違うんだよなあ”ということが出てくる場合もある。一方で、作家の皆さんから見れば、「濱? 元警官が、警察小説書いて、あの野郎、ズルイよな」ということもあるんだろうと思います。実際、ある映画監督から、「だって、オレが映画の世界のことを小説に書くようなもんでしょ? それはズルいよ」と言われたこともありますし、まあ、そう言われると、ちょっと申し訳ないような気もしてまいります(笑)。
さて、そういった次第で、私の場合、16冊のうち、実に14冊が警察小説で、ほかに経済小説というものも書いてますが、なぜそれが今回、首相官邸を舞台に内閣官房の世界を描くことになったのか。もちろん、文藝春秋さんのほうから、ご依頼をいただいたということもあったわけですが、一方で、今日ほど内閣官房長官、――まあ、菅(義偉)さんですが――という存在がクローズアップされている政治状況も珍しいと思います。
では内閣官房長官とは、どういう存在なのか。テレビのニュースなどでは、時々の情勢について、官房長官が会見でコメントしている映像を見ることは多いと思いますが、例えば、彼が日常、どういう人たちと会って、何を決めて、どう政治に関わっているのか。こういったことは国民には、意外と知られていないのが実情だと思います。
名官房長官といえば、歴史を遡れば、二階堂進さんだとか、あるいは警察出身ということで私どもの大先輩でもあります後藤田正晴さんだとか、最近では小泉純一郎政権における福田康夫さんなども“ハマリ役”と評価されていました。ここに菅さんの名前が連なるのかどうか。ひとつ言えるのは、日本はもちろんのこと、世界の政治状況もこの十数年で、激変している中で、官房長官というものに求められる枠組みも、当然変わってきている。その意味では、その新たな官房長官のフレームを一気に変えているのが菅さんじゃないかな、と思います。
私自身と政治との関わりでいえば、警察官時代に「内閣官房内閣情報調査室」に入ったのが、平成4年になります。ちょうど宮沢(喜一)政権の最後でございました。そこから、細川(護煕)、羽田(孜)、村山(富市)の各内閣で仕事をさせていただいて、その間に2度の政権交代が起こりました。そこで当然、政治上の様々なドラマを目撃することになったわけですが、政権交代といえば、近年も2回ありました。政治の世界では往々にしてあることですが、国難のときに、不幸にして、今の政権とは違う政権が対応に当たったわけですが、東日本大震災、ことに福島第一原発の事故への対応において、当時の官房長官の動きが結果的に国を左右したわけです。もうひとつ踏み込んでいえば、国難を招いてしまったわけです。私が公安部出身だから、こういうことを言っているわけではなくて、やはり政治家の決断というのは、その当時の状況はどうあれ、その判断の将来にわたる結果において評価するほかないわけです。
電光石火
発売日:2015年01月30日