書評

舞台は首相官邸!
超人気シリーズ『警視庁公安部・青山望』の著者が極限のリアリティで、権力の舞台裏を描く

文: 濱 嘉之

『内閣官房長官・小山内和博 電光石火』 (濱嘉之 著)

警視庁公安部出身の濱嘉之さんによる新シリーズが始動します。主人公は内閣官房長官。圧倒的なリアリティをもって官邸を描きだす本書の注目ポイントを先日、小社で行われた「文藝春秋出版企画発表会」で語っていただきました。

 では今回、私が小説、つまりフィクションとして官房長官の何を描いたのか。ときどき、私の小説を評して「ノンフィクションだ」と仰る方がいらっしゃるんですが、本当にノンフィクションだったら、私はとっくに、国または東京都から公務員法の「守秘義務違反」で訴えられて、捕まってるはずです(笑)。だからそういう形はとらない。今回の小説でも、読者のなかには、「これは、あの人のことかな」とか「あのときのことかな」という風に感じる人もいるかもしれませんが、もし仮に誰かに似ていたとしても、私としてはまったく別の人間、別の事件を描いているつもりです。

 一方で、私がフィクションという形にこだわるのは、「あるべき姿を追い求めたい」という想いが強いからです。現実はどうあれ「こうあってほしい」「こうであるべきだ」というスタンスに基づいて、小説を書いてきております。

 その意味で、本作の主人公の小山内和博という男は、私自身、様々な政治家を身近でみてきて、これからの日本の政治家はこうあってほしい、という想いをこめて書いたところがあります。一筋縄ではいかない世界だからこそ、いわゆる損得だけで動くような政治家、自分の信念を持たない政治家は、政治の世界に呑み込まれてしまう。政治の世界の中心に踏ん張って立ちながら、現実と格闘できる人物でなければ、官房長官というものは務まらないはずです。単なる理想主義者でも現実主義者でもなく、常に自分の信念と現実の状況とに折り合いをつけながら、国家の将来のためにベストと信じる「選択」を重ねていく。当然、これらは政権のトップたる首相にこそ求められる資質でありますが、今回の小説で、官房長官を主人公としたのは、官房長官のところには、首相に上がる前の玉石混交、あらゆる情報が集まってきているわけです。それを取捨選択し、自分なりの筋道をたてて、首相の判断を仰ぐべきものを仕分けていくのが官房長官の仕事なわけですが、その分、より政治のダイナミズムや活力が見えやすいポジションだからでもあります。

 ともあれ、小説の舞台として、首相官邸と官房長官を描くわけですから、一応、書き始める前に、官邸にお邪魔しまして、菅官房長官には仁義を切りました。それから私にとって警察時代の上司でもあり、現在、内閣官房副長官を務めている杉田和博さんにも、こういうものを書くということはお話ししました。「いい加減なものは書くなよ」と笑いながら言われましたが、私としてはこの国のあるべき将来を想いながら、この小説を書いたつもりです。

 この小説には、官房長官以外にも、官邸の様々な住人たちが登場します。同じく文春文庫から先行している『警視庁公安部・青山望』の主人公、青山警視も物語のなかで、重要な役割を担って登場します。私としては、官房長官がどういう仕事をしているのか、官邸がどんなところかを知ってほしいという気持ちはあまりなくて、ここにも国家のために身を粉にして働く人がいるということが伝わればいいな、と思っております。

 ぜひ、皆さまにお目通しをいただけると幸いです。よろしくお願いいたします。

(2014年11月13日「文藝春秋出版企画発表会」にて発表された内容に補足、加筆)

内閣官房長官・小山内和博 電光石火
濱嘉之・著

定価:本体520円+税 発売日:2015年01月05日

詳しい内容はこちら


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