- 2017.01.20
- 書評
宇宙論の興奮を体感させたクラウス教授の「宇宙白熱教室」
文:井手 真也 (NHK 大型企画開発センター エグゼクティブ・プロデューサー)
『宇宙が始まる前には何があったのか?』 (ローレンス・クラウス 著/青木薫 訳)
ローレンス・クラウス教授に、NHKの「白熱教室」シリーズへの出演を正式にオファーしたのは二〇一四年一月、本書の単行本が日本で刊行されて二ヶ月後のことだった。読み終えた時のあまりの衝撃に、ぜひテレビ番組化させて欲しいと頼み込んだのだ。
「白熱教室」は、海外の著名な大学教授などによる連続講義を収録し、それに文字や映像での解説を加えた形で、当時Eテレで放送していたウィークリー番組だ。クラウス教授の講義は『宇宙白熱教室』と題し、同年の六月二十日から四週連続で放送された。「白熱教室」シリーズの中でも比較的多くの視聴者にご覧いただき反響も大きかったため、担当した私たちにとって思い出深い番組となっている。しかし、制作を始めた当初は、暗黒物質や暗黒エネルギーといったまるで呪文のような専門用語が飛び交う最先端の宇宙論を番組化しようという試みが、局内ではかなり無謀なチャレンジと映ったためか、様々な心配や疑問をもって周囲に受け止められていたと記憶している。
クラウス教授の講義を収録するまでの一ヶ月ほどのスケジュールは、制作現場のいつもの例にもれず、バタバタだった。受講生の募集方法や、テレビカメラと照明器具などをセットできる広さと設備を持った講義会場の選定など、ロジスティクスばかりに時間がかかり、ついに二月中旬のアリゾナ州立大学での本番までに、肝心の講義内容について、教授との打ち合わせがほとんどできないままだった。事前に決まっていたことと言えば、本書を一般大衆向けにさらに噛み砕いた内容にしてもらうことだけ。物理学に関する啓蒙的著作を数多く持ち、メディアにも頻繁に登場する科学の伝道師のクラウス教授ではあったが、超難解な宇宙論が果たして一般の視聴者が楽しめるレベルのテレビ番組になるのか、しかも、たった四回の講義でそれを完結させることは可能なのか、プロデューサーとして収録現場に立ち会うため渡米した私は、実はかなり不安な心持ちだった。
収録の前日、大学構内のクラウス教授のオフィスにお邪魔した時には、教授の予想以上の忙しさに圧倒された。大学の講義の合間をぬった打ち合わせの最中にも、学生などの訪問者が次から次へとやって来る。私とスタッフは最後の最後まで十分な打ち合わせができなかったことで正直焦(あせ)った。講義がどんな順番で展開し、出し物として何が飛び出すのか分からなかったからだ。ただ、教授のオフィスに配置されたたくさんの装飾品を見て、「ああ、この部屋の主は最高の遊び心を持っているから、きっと大丈夫に違いない」と直感したのを覚えている。扉には「エリア51」と書かれた看板、壁際にはスター・トレックに登場するエンタープライズ号の模型やカーク船長の等身大のパネル、それにムンクの絵画「叫び」の人物の立体人形や、原人の化石のレプリカなど、まるで夢追う少年が集めたようなコレクションがびっしりと並べられていたからだ。
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