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女の確かさが照らす、<br />男のよるべなさ<br />自覚することで歩み始めた男たちの姿を描く

女の確かさが照らす、
男のよるべなさ
自覚することで歩み始めた男たちの姿を描く

「本の話」編集部

『つまをめとらば』 (青山文平 著)


ジャンル : #歴史・時代小説

――自分の領域から這い出て、呑み込み難いものも口に入れていかなければ。

青山文平あおやまぶんぺい/1948年、神奈川県生まれ。早稲田大学政治経済学部経済学科卒業。経済関係の出版社に18年勤務、その後フリーライターを経て、2011年『白樫の樹の下で』で第18回松本清張賞受賞。2015年には『鬼はもとより』で第17回大藪春彦賞受賞。同作は第152回直木賞候補にもなった。他の著書に『かけおちる』『約定』『流水浮木』。2015年7月、最新短篇集『つまをめとらば』刊行。

青山 そうです。這い出て、交わって、ありえんだろう、などとさまざまにぼやきつつ、乗り越えて、生きていくしかない。

 世の中には、本当にそうなのかははなはだ疑問なのだけれども、便宜的な理由で、あるいはいままでずっとそうだったからというだけの理由で、そういうことになっていることが、ままあります。

 女と男の関わりも、その典型的な事象ではないでしょうか。女が弱い生き物で、男が守らなければならないという図式。暴力という視座からみればこれはまったく正しくて、だから、社会の歴史的方向性は暴力の排除というほうに動きます。そうして社会が一応成熟して、一定の暴力の排除が実現すると(常に揺り戻しはあるし、DVのような形で偏在はしますが)、それまで目立たなかった、女の存在の強さ、確かさが浮き彫りになり、逆に男の存在のおぼつかなさ、よるべなさがはっきりしてきます。

 繰り返しになりますが、男はただそこに居ることができない。アリバイを並べて時間をつないでいく。だから、組織を外れたりしてアリバイの手掛かりがなくなると、途端に不安になります。で、いつまでも組織にしがみつきやすい。「老醜」は、アリバイがないと己の存在を保つことができない男に特有の事象でしょう。男がしでかす諸々の問題も、さかのぼれば、その多くは、根源的なよるべなさに行き着くのではないでしょうか。

――男が自らそのことに気付くことはできるのでしょうか。

青山 自覚するしかないし、自覚したほうが生きやすいんじゃないですかね。だって、変な勘ちがいをするから、ストレスを自分から引き込むことになるわけでしょう。ちゃんと、大人らしく、自分を客観的に相対化して、女の存在の強さに頼っている自分と出会ったほうが楽だと思いますよ。さしたる根拠もないのに、そのままになっている世の中の見方を捨てて、ありのままの相手と、そして自分を知れば、きっと、いまよりはおおらかな視界が開けるはずです。そのとき初めて、女と男がより能く交わるための手掛かりも見えてくるのではないでしょうか。本書がそうしたきっかけになってくれれば、書き手としては嬉しい。

文春文庫
つまをめとらば
青山文平

定価:715円(税込)発売日:2018年06月08日

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