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ピケティブームの真実とは? 18世紀のルソーから始まった「不平等との闘い」を総ざらいする

ピケティブームの真実とは? 18世紀のルソーから始まった「不平等との闘い」を総ざらいする

「本の話」編集部

『不平等との闘い ルソーからピケティまで』 (稲葉振一郎 著)


ジャンル : #ノンフィクション

――「成長と格差」は本書の重要なテーマですね。

 途上国では食べ物にも困るような「絶対的貧困」状態がありますから、先進国の経済学者たちの関心も、国内問題から途上国へと移ってしまいました。一方で、低成長時代に陥った21世紀の先進国では、国内の「相対的貧困」が問題なわけです。だからといってそれが途上国の「絶対的貧困」に比べて「まし」なのかというと実はそう単純なことは言えない。

 個人的には直感的に「実は成長していなければ、社会全体としては貧困に陥らざるを得ないのではないか」と考えています。これは先進国と途上国とを問わず、です。ただまだうまく理論化できていません。

 日本は一億総中流と呼ばれる均質化社会でした。アメリカや西欧はスラムや移民と関係が深いですから、不平等の研究はずっと続いていましたが、日本ではしばらく「今も無いし将来も出ないよ」と忘れられていた感じがします。そういう時代もあった、ということをお伝えしたい、という思いもありました。だからこそ、この260年間の「不平等と経済思想の闘い」を振り返ることが重要だと思います。

――「歴史に注目すべき」という問題意識が貫かれていますね。

ジャン=ジャック・ルソー

 不平等を考える際にも、その背景にある「学史」を学ぶことが必要だと思うんです。社会学の場合は○○先生の理論、といったような属人的な色彩がまだまだ強く、「社会学史」は思想史偏重になってしまう。ブルデュー以降の社会学界ではそういう「思想」的巨人が途絶えてしまって、そのことによって歴史的方向感覚がちょっと失調している気がします。そこから普通の科学になる途上なんでしょうか。

 それに対して経済学には「思想史」とは区別される「学史」が明確にあり、リファインして活用すれば道筋が見える気がしたのです。そこで、土地の私的所有を認めたことで市民が「不平等」の感覚を持ち始める元祖となったルソーと、経済成長による底上げ効果を唱えたスミスをベンチマークとして、18世紀から21世紀を概観することにしたのです。

――社会学部の先生が、経済学史に挑戦したきっかけは何ですか。

 正直申し上げて、当初は「ピケティ本を書くのはお門違いではないか」と思っていました。東大の大学院でマルクス派の労働経済学をやっていましたが、就職してから方向転換して社会倫理学の道に進んでいたので。まあ、編集者に頼まれたので「ブームに乗ってみようかな」という気持ちもあって(笑)。でも結果的には、溜め込んできた知識の引き出しを開けて整理でき、一連の背景を他の本とは違う文脈で語ることができてよかったと思っています。前向きにポジティブな提言をしているわけではないのですが、語る基本軸は出来ていましたし、自分が学んでいた頃の日本の経済学会では大きな変動があったもので……。

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不平等との闘い ルソーからピケティまで
稲葉振一郎・著

定価:本体800円+税 発売日:2016年05月20日

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