「中学で3年、高校で3年、大学の前半で2年、合計で8年やったのに、外国で買物ひとつ出来やしない。どう考えても日本の英語教育は間違っている!」この抗議に「そうだ、その通りだ」と賛成する多くの方を念頭において、本書を書きました。
英語・英語教育については、あまりに多く、誤解や嘘や無知がまかり通っています。上記の他にも、「小学校から英語を学べば、ペラペラになる」、「アメリカの赤ちゃんは文法を知らずに喋っているが、あれを真似るのがよい」、「帰国子女はネイティブ並みに英語を使える」、「すぐれた教材を使えば、苦労しないで喋れるようになる」、「相撲取りが日本語を覚えるように、英語をモノに出来る筈」、「国際比較で日本人の成績が低いのは、教育方法が悪いからだ」、「受験英語は英語学習の敵だ」、「昔の文法と訳読の学習は役立たない」、「英会話こそ役に立つ英語だ」などなど。いずれも誤りです。
日本の英語教育が、「読み、書き」から「聞き、話し」に重点を移してからもう10年以上も経過している事実をご存じでしょうか。それも知らずに上記の不満を漏らす人が多いのです。
大学入試センター試験に、「これで日本人の聞く力が飛躍的に向上する」という謳(うた)い文句で、リスニング・テストが導入されてから、既に何年も経過しました。結果はどうだったのでしょうか。ヴァニラ・アイスクリームを注文できるという程度の成果があったにしても、その一方で、導入以来、大学生の読解力が目に見えて低下したという現象が見られるのです。
2020年のオリンピックの日本開催が決まり、また一段と英語への熱い眼差しが強まってきました。来日する外国人とコミュニケーションをとるために、是が非でも英会話をモノにしたいと願っている人がいかに多いことでしょう。
私は、長年、東京大学などで英語を教えてきました。英語英文学の月刊誌で翻訳指導のコラムを20年以上担当しましたし、何冊もの英語学習の本を書いてきました。「読み、書き、話し、聞く」技能の基礎力だけは、きちんと身に付けておくのが望ましいと思っているからです。
そういう私ですので、英語学習熱の高まりは歓迎する筈ですが、冒頭で述べたように、あまりにも勘違いが多いので、喜んではいられず、むしろ、大嘘を暴き真実を語る義務さえ感じます。