インタビューほか

〈対談〉私たちの見た司馬遼太郎
和田宏×山形眞功

「本の話」編集部

『司馬遼太郎という人』 (和田宏 著)

長年、司馬遼太郎さんの担当編集者を務められたお二人。『司馬遼太郎という人』(和田宏著・文春新書)刊行を機に思い出を語り合っていただいた。

肉好きで大の魚嫌い

和田 ところで、司馬さんで真っ先に思い出すのは、すごい偏食だったことですよね。普段、何を食べてたのかな(笑)。

山形 肉がお好きでしたね。

和田 まずカツレツでしょ。それからカレーライス、あとミックスサンドウィッチ。そば、うどんは大丈夫。それ以外のものを食べているところを僕は見たことないんだよね。

山形 みどり夫人が『司馬さんは夢の中』で書かれていますが、司馬さんは結婚前、みどり夫人に、自分は食べることに執着が少なく、魚も肉も嫌いだとおっしゃっていたらしい(笑)。結婚されて初めて、牛肉が好きだということがわかったと。

和田 会食というときは困りましたね。結局、肉を食べさせるところに行くしかない。

山形 カレーだったらどこに行ってもまず信用できるとおっしゃっていた。ご自宅に伺って原稿を待っているあいだにごはんを出していただくことがあるんですよ。あるときステーキだったんですが、これがいい材料を使っていて(笑)。

和田 そりゃ、いい肉を使ってるでしょう(笑)。でも、街なかのレストランの、僕たちが「こんなカツレツ」なんて思うものでも黙って食べる。うまいまずいを言わない人だったですね。

山形 ちょっと手土産をと思っても、困ってしまう。

和田 お寿司なんかダメ。大の魚嫌いだったからね。

山形 担当になって三年目だったかなあ。あるとき、からすみを手土産に持っていったことがあるんですよ。まずかったな(笑)。魚卵がダメだってまだ知らなかった頃の話です。それと、もう一つ失敗談があってね、司馬さんが日本芸術院恩賜賞を受賞したとき、あるレストランでお祝いすることになったんです。もちろん前もってレストランには鳥や魚は絶対ダメですよって言っておいたんだけれども、フォアグラが出てしまった。

和田 一切、手を付けなかったでしょう(笑)。

山形 もちろんですよ。みどり夫人は鳥が全然ダメでしょう。そうそう、尾頭付きの魚もダメ(笑)。

和田 鯛の焼死体を見ただけで胸が悪くなるって、よくおっしゃっていた。それにしても、「鯛の焼死体」っていうのもすごい言い方だ(笑)。

山形 司馬さんは、お酒を飲んでいるようでいて、飲んでいませんでしたね。東京へ来て、われわれと会ったりするときに飲むぐらいで。それも最初は少し口をつけるんですが、あとはほとんどお話になってしまう。

和田 酔っ払うのはこっちばっかり。

山形 司馬さんは酔っ払ってませんでしたね。

和田 昭和五十四年のご自宅の新築祝いのときに、僕ら酔ってみんなでラインダンスや盆踊りみたいなものを踊ったことがあったでしょう。あのとき、こっちはすっかりできあがってたけど、司馬さんはしらふで踊っていたのかなあ。付きあいがいいというか。何というか……。

山形 ご自分は飲まないけど、酒飲みには寛容でしたね。「書生酒」の雰囲気が好きだったんでしょう。でも、酒席でだれかとだれかが大喧嘩したとか、だれかがある人に向かって意地悪したとなると、ものすごく怒ります。

和田 人のご機嫌をとるなんてことはしないんだけど、人を喜ばそうという努力をする人だから、そういういさかいは嫌いだった。

【次ページ】醤油で描いた点描画

司馬遼太郎という人
和田宏・著

定価:本体720円+税 発売日:2004年10月20日

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