2015.08.19 インタビューほか

女という圧倒的リアル

「オール讀物」編集部

『つまをめとらば』 (青山文平 著)

女という圧倒的リアル

 いま最も注目される時代小説作家は誰か? そう問われたら青山文平の名前を挙げたい。『白樫の樹の下で』で松本清張賞、『鬼はもとより』で大藪春彦賞受賞。デビュー以来、18世紀後半の武家社会を描き、着実に読者の心を捉えてきた。しかしこの短篇集では、環境によってさまざまに形を変える女とそれに翻弄される男たちを描く。これまで武家社会という「男」の世界を書いてきた青山さんは、なぜ「女」に目覚めたのか?

「男という生き物は、ただ生きる、ことが難しい。いま俺はアレをやっているんだとか、コレをやっているんだとか、そのときどきのアリバイという点を並べて、時間をつなげていきます。点ですから空白ができるのが当り前で、だから、なんとも存在がおぼつかない。よるべない。ところが、女はもう生まれたときからしっかりした線なんですね。思うに、女は根源的に、人間の存在の地肌で生きている。男はそこから浮き上がったところに仮想の座標軸をこしらえてアレコレをやっている。確かな存在の地肌から疎外されていると言ってもいい。おのずと物語世界にしても、男だけだと幼稚で平板になりやすい。そこに女という圧倒的なリアルが入り込むことで、世界に奥行きが出るわけです。ですから、生きていく力という点でも、女のほうが圧倒的に強いのは自明と思えるのですが、どうも、そういう認識は一般的ではないらしい。そのズレが、今回の作品集につながったのだと思います」

青山文平あおやまぶんぺい/1948年神奈川県生まれ。2011年『白樫の樹の下で』で松本清張賞、15年『鬼はもとより』で大藪春彦賞受賞。同作は直木賞候補にもなった。

 これまで独り身を通した56の男が、ついに妻をもらう踏ん切りをつけるまでを描く表題作をはじめ、世間で評判の美男美女と言われた武家の夫婦の顛末が切ない「ひともうらやむ」、亡くなった妻の秘密を知り、夫が妻の本当の姿を追い求める「つゆかせぎ」など、一篇一篇から現代にも通じる濃密な男と女の生の匂いが立ち上ってくる。小説内の人物であるはずなのに、実はどこかに存在しているかもしれない。そう思わせるほど、彼らは表情豊かに生を謳歌しているのだ。

「もともと自分はプロットをつくりません。ざっくりとした構想だけ決めたら、あとは指に任せます。物語の流れがどうなるかは登場人物しだい。彼らがどういう気持ちになり、どういう言葉を口にするかで、世界が移っていきます。今回、この作品集を仕上げていく過程で、あらためて自分が、書いて初めて展開する書き手であることを悟らされました。どちらがいいわるいではなく、どうやら、そういう自分と付き合っていくしかないらしい。それが分かったことも、今回の収穫でした」

つまをめとらば
青山文平・著

定価:本体1,500円+税 発売日:2015年07月08日

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オール讀物 2015年8月号

特別定価:1,200円(税込) 発売日:2015年07月22日

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