祖父が創業した老舗飲料会社に入社し、三代目社長に就任したホッピービバレッジ代表取締役の石渡美奈さん。「オヤジっぽい」イメージで低迷していたホッピーの認知度アップに取り組み、落ち込んだ売上高を、V字回復させた経営手腕の秘密に迫る。
私の原点となっているのが、小学校二年生の時に読んだ『赤毛のアン』です。
アンの自由奔放な生き方に共鳴したこともあって、大学を卒業して、大手食品メーカーや広告代理店などで働いて、突然“父の後を継ごう”と思い立ったんです(笑)。なんといってもアンの魅力は、孤児院で育つという環境におかれても、発想の転換で楽しく過ごすところですね。小説を読んで、願えばかなう、ことを知りました。ただ、それは自らの努力によってのみなしえる、ということも。
正直に生きる姿勢や、育ての親のマシュウとマリラを喜ばせようと懸命に勉強して、奨学金を手にするアンを心から尊敬し、“私もアンのようになりたい”と願っていました。中学二年のときに、カナダで、“アンの記念切手”が発売になったことを知ったんです。どうしてもそれが欲しくて、北は北海道から南は沖縄まで、全国の切手屋さんに電話をしました。諦めきれず、当時は英語も話せませんでしたが、カナダ大使館にも電話を掛けたり……。最後は、意外と近くの帝国ホテル脇の切手屋さんで手に入れることができたんです(笑)。願えば叶うことを実地で学んだのかもしれません。
舞台であるカナダのプリンスエドワード島にも憧れました。近くに小川が流れるグリーン・ゲイブルズの豊かな自然も大好きで、今では大学院で、森を舞台にした“リーダーシップの研究”をするまでになりました。どんな研究かと言いますと、情報化社会に生きる私たちは、立ち止まって思考する時間をなかなか持てません。そこで、「手つかずの森林で、内省と対話をすることで自己感とリーダーシップを育成し、それが自分と他人を幸福にすることに寄与する」というものですね。
新卒社員の基礎教育というのは、企業にとって大切なことです。徹底的なティーチングで、社会人としてのいろはを叩きこむことは簡単ですが、基礎教育を終えた社員を、リーダーに育て上げるのは、すごく難しい。そのための研究です。
きっかけは、山田博さんという方が開催している「森のリトリート」というプログラムを体験したことでした。森の中で数時間一人だけの時間をすごし、その後に他者と対話、ということを何セットか行ないます。一人で森にいると、たくさんのメタファーがあることに気づきます。たとえば、倒木から芽が生えている光景は、すべての存在には意味があることを教えてくれます。天候のかわりやすい森では、翌朝に光景が一変していることもありますから、「この瞬間を生きること」がいかに大切であるかが分かります。こんなことを研究しているのですが、修士論文の提出期限がもうすぐで(笑)。