安部龍太郎さんの最新作『おんなの城』は、戦国時代を熾烈に生きた女性三人を描く中篇集だ。2017年のNHK大河ドラマの主人公に決まった井伊直虎をはじめ、当時の女性がおかれた状況と、その生き方とは――
――戦国時代を舞台に、女性を主人公に作品を書こうと思った理由を教えてください。
当時、政略結婚で嫁いだ女性は人質として翻弄されました。これは、男の辛さとは質が違うと思うんです。男は自らの決断で行動できる場面が多く、嫌ならば家を捨てて出て行くという選択肢もあった。ところが女性の場合はそんな選択肢はなく、嫁にいけと言われればいかなければならないし、人質ですから、嫁いだ先ではスパイとみなされる。その二重の辛さのなかで自分をまっとうする生き方をするのは、困難であり、知恵も必要で、自分をどう御していくかを常に問われるでしょう。そのような女性を主人公に連作を書きたいという思いがあったんです。
以前、『戦国の山城をゆく』という本の仕事で岐阜県の岩村城へ取材に行ったのですが、そこに「女城主の里」という看板がありました。これは、織田信長の政略によって岩村城主・遠山景任に嫁いだ女性のことですが、地元の人たちが、女城主として今でも彼女に敬慕の念を抱いていることに驚いたのも、執筆のきっかけになりました。
――意外な形で愛を得る珠子(「霧の城」)。七尾城主の夫が城から追放され、城と息子を守るために戦うことを決意する佐代(「満月の城」)。井伊家存亡の危機を切り抜けるべく、還俗して女地頭となった奈美(「湖上の城」)。本作で描かれる三人は、それぞれの方法で試練を乗り越えようとし、家を守ろうとします。
戦国武将にとって城は、敵からの攻撃を守る要塞です。しかし、その中で暮らす女性にとって城は生活の場そのもの、つまり「家」に他なりません。城は、生活をして、子どもを産み育て、次の世代に引き渡すための器なのです。ですから、その城が戦争によって破壊される時、男よりも女のほうが、受け止め方が深刻で切実なのではないかと思います。
それに、女性は子を産む存在ですから、次の世代へと命を繋ぐ責任感を持っているように感じます。自分や子孫を守るために生きようとする女性の本能的な強さは、もしかすると、男には想像のつかない強さなのかもしれません。