- 2014.09.03
- 書評
一気読みは確実の超面白小説
文:北上 次郎 (文芸評論家)
『ライトニング』 (ディーン・R・クーンツ 著/野村芳夫 訳)
出典 : #文春文庫
ジャンル :
#エンタメ・ミステリ
問題はその素晴らしいクーンツが、あっという間にいなくなってしまったことだ。この稿を書くためにハードディスクに入っているクーンツ評を抜き出してみたら、一九八九年以降(この稿はすべて翻訳刊行年の表記でいく)のクーンツは、翌年の『ハードシェル』(ホラー小説のアンソロジーだが、この表題作は素晴らしい)、『トワイライト・アイズ』を最後に、その作品から興奮が失われていく。91年『ミッドナイト』、同『ストレンジャーズ』、95年『ウィンター・ムーン』、96年『コールド・ファイア』、97年『心の昏き川』、98年『ミスター・マーダー』、01『真夜中への鍵』、07年『ハズバンド』、08年『チックタック』、同『善良な男』、09年『オッド・トーマスの霊感』と、ことごとく新刊評で私はそれらの作品に文句を付けている。一九九一年以降の作品で絶賛したのは、93年『ウォッチャーズ』のみ。この他にもクーンツ作品の翻訳はあったのかもしれないが、私のハードディスクに入っている91年以降の作品はこの12作品だけだ。
急いで書いておかなければならないのは、クーンツはうまくなったということだ。円熟の境地、と書いたこともある。それは認めよう。しかしそれは「クーンツの後退」(『オッド・トーマスの霊感』評)だと私は考えている。ひらたく言えば、うまくなったクーンツはつまらない。『戦慄のシャドウファイア』をいまでもクーンツのベスト1と考えている人間であるから、そう思うのも当然である。乱暴でもいいから強引にストーリーをでっちあげる迫力こそ私は愛したいのだ。
というところで、本書『ライトニング』である。もっともクーンツが輝いていた一九八九年に翻訳が刊行された長編で、この稿を書くために読み返したが、おお、いまでも面白い! 流行作家のローラが主人公。強盗に命を狙われそうになったり、交通事故に巻き込まれそうになると、そういう人生の直前、なぜか正義の騎士が雷鳴とともに現れ、彼女の危機を救ってきた。それが謎めいた装置を通じてやってきた男であることが徐々に明らかになっていく。さらには、その男と同じ世界から、彼を追ってもう一人やってくることも読者に知らされる。何のために正義の騎士はやって来るのか。謎の装置の正体は何で、彼らはどこからやってくるのか――そういうことは長く伏せられる。目の前で展開するのは、孤児院で育つローラの苦難の人生だ。これだけでもたっぷりと読まされるが、もちろんタネ明かしされる後半も読み応え十分で、一気読みは確実の超面白小説である。
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