あさのあつこは児童書でデビューし、10代の心情を瑞々しく描いた物語で人気を博した。最近はミステリーやファンタジー、SFなどジャンルを超えて活躍し、時代小説にも意欲的に取り組んでいる。『燦』シリーズは江戸時代を舞台に、葛藤し成長していく少年たちを描いた青春活劇だ。
江戸から百八十里ほど離れた田鶴藩。鷹狩りを楽しむ藩主長城守を突然、刺客が襲う。風が走り、鷹の群れが空へ舞い上がる。白銀に煌めく薄の穂波から、一人の少年が姿を現す。名は、燦。鷹を自在に操り、人並み外れた身体能力と剣技を持つ異能の人。
燦の登場シーンはあまりにも鮮烈。煌めき躍動する燦に心奪われ釘付けになる。少年の刹那の輝きを切り取る名手、あさのあつこの真骨頂だ。初手でぎゅっと急所を掴まれ、一気呵成に引き込まれる。あとはもう夢中でページをめくり続けることになる。
燦は古くから田鶴の山々に住む「神波の一族」の生き残り。神波は山に選ばれ、慈しまれ、守られた一族だ。男も女も身体能力に優れ、人の心を読むなどの異能を備える。誇り高い一族は藩命に従わず、長城守によって滅ぼされた。燦は一族の復讐のため刺客となったのだ。
獲物に襲いかかる鷹のごとく、長城守に迫る燦。その白刃を受け止めた剣士がいた。筆頭家老の嫡男、吉倉伊月だ。幼い頃から藩主の二男・圭寿に仕える、藩でも屈指の剣の遣い手だ。燦と伊月。刃を交え、二人は出会った。宿命の少年たちは、一瞬で惹かれ合い、波乱の物語は動き始める。
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