川野 私も池波さんと一緒のときは、とにかく一種類ずつとって、それで半分ずつ食べていましたねえ。あれはほんとうに、色々なものが食べられていいですね。それがすっかり癖になっちゃって、よそでやったら顰蹙(ひんしゅく)されました。行儀が悪いって(笑)。
大村 それから、健啖家であると同時にね、これは誤解されるといけないんだけど、やっぱり好色性がありましたよ。池波さんには下世話に砕けているところがあって、食べること、寝ること、それから男女の営みを三大基本にしているでしょ。池波さんの好色的な面が、作品にふくらみを持たせるわけですよ。『剣客商売』でいえば、秋山小兵衛の彼女なんて、まだ十代のおはるというのは、むっちりしている。
仕掛人の梅安だって、井筒という店の、女中で後に女将になるおもんというのがいて、これもまたふっくらしているんですよ。「肉置(ししお)きがいい」とかね(笑)。好色性というのは、悪い意味で言うんじゃなくてね、作品に艶っぽさを出してましたよ。梅安でも小兵衛でも色っぽい部分がある。それが読んでいてよかったな。
川野 私は逆に若い頃は、ああこのおじさんたち、いやだなあ、と(笑)。
大村 川野さんにそう思わせたところがいいんだ(笑)。
女性を書くときも、いい女だ悪女だと決めつけるのではなくて、一人の女性のいい面と悪い面、また環境によって変わっていくところなどを、巧みに描き分けている。
川野 でも私は、よく分からないところがあるんですよね。池波さんの理想の女性というのは平蔵の奥さんになるのでしょうか。
花田 久栄さん。久栄さんのイメージはぼくは豊子夫人に重なるんですが。
大村 久栄は武士の妻で、家をおさめる、という意味では理想的だけれど、やはり、小兵衛のおはる、ああいうのが一つの男の願望を体現している。
花田 ちょっと気詰まりなところもあるんでしょうね、久栄じゃ(笑)。
大村 「鬼平」の密偵おまさとかね。ちょっと太り気味の。
川野 でも、インタビューなんかでは、べたべたする女性は嫌いで、どちらかというと男っぽい感じのほうがよい、とおっしゃっている。だから、ほんとうのところ、よく分からないんです。
大村 池波さんに、いかにも好色そうな中年男という感じが出てきたのも「鬼平」以降ですよね。
花田 グラビアで「池波正太郎と7人の女性」というのをやりましたが、やはり太った、いやふくよかな女性が多かった。
(この座談会の全文は単行本でお読みいただけます)