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われらが青春の日々 昭和四十年代の池波さん

われらが青春の日々 昭和四十年代の池波さん

「本の話」編集部

『食べ物日記』 (池波正太郎 著)

出典 : #本の話
ジャンル : #随筆・エッセイ

大村  しかし、この「食べ物日記」を読むと、花田さんはほんとうによく池波さんのところへいらしてるねえ。

花田  当時は新人なので、あまりやることもなくて、ただ楽しみに伺っていただけなんですけれどね。今、考えると御迷惑だったかも(笑)。五反田からバスに乗って、よく行きましたよ。楽しかったですね。とにかく先生は原稿が早いでしょう。他にも五味康祐さんや藤原審爾さんを担当していましたが、もう原稿が遅い人ばっかり(笑)。池波先生だけは早くて、いつも締切一週間前には出来ている。有り難かったですね。出来てるよ、と電話をいただくと、すぐに参上して原稿をいただいて、お昼を御馳走になって帰ってくる。こちらはほんとうに若造ですから、ものを知らないので、少しは教えようと思ってくださったのか、取材と称して、本所とか浅草とか、ほうぼうへ連れて行ってもくださった。非常に私は得をしていますね。

大村   川野さんも、この「花ぶさ」に月に一度は池波さんといらしている。

川野  先生も、あんなに生真面目に書かなくていいのに(笑)。この日記読んでたら、毎月先生とお酒飲んで御馳走食べていただけみたいに見えますよね。でも、『青春忘れもの』の連載中ですからね。原稿はだいたいこの店でもらうことになっていました。

花田  僕、ここの板長さんのお嬢さんとの見合いを先生に勧められたこともありましたね。アパート持ってるから食うに困らない、見合いしろ、と(笑)。僕はそのときもう結婚を決めていたので、見合いは実現しなかったんですけど、ちょっと残念(笑)。

大村   池波さんはお子さんがいなかったせいもあるけれども、若い人を可愛がったね。結婚を勧めて、お仲人なんかもやってらした。

花田   すき焼き屋だとか、軍鶏(しゃも)の店とか、銀座の「煉瓦亭」とかね、しょっちゅう連れて行ってくださいましたね。煉瓦亭の大カツというのがお好きでした。何でも教えていただきました。ハイボールなんて知りませんでしたから、先生に教えられて初めて飲みました。

大村   しかしあの頃は健啖家(けんたんか)でしたね。店で、同じものを注文すると怒るんですよ。

文春文庫
鬼平誕生のころ
食べ物日記
池波正太郎

定価:660円(税込)発売日:2010年11月10日

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