2016.01.13 書評

わたしの宝石=朱川湊人作品

文: 植田 泰史 (共同テレビジョン 第1制作部 ディレクター)

『わたしの宝石』 (朱川湊人 著)

『わたしの宝石』 (朱川湊人 著)

 10年前のある日。帰路の電車で、私は知り合いの脚本家に薦められた小説を読んでいて、不覚にも涙が止まらなくなってしまった。わりと混んだ電車内で中年男が号泣する様はかなり異様だったに違いない。まわりの視線に耐えられなくなり途中駅で電車を降りた。ホームのベンチでたっぷり時間をかけて残りを読み切り、涙が乾くまで余韻に浸り、そして考えた。

 この物語を、必要とする誰かに何とかして届けたい、と。

 物語は、朱川湊人氏の『花まんま』、後に直木賞を受賞した作品だ。

 

 私はドラマ番組のディレクターを生業としている。だから物語を誰かに届けるにはドラマや映画という手段がある。

 朱川さんや版元の皆さん、映画会社の方々に支援していただき、私は『花まんま』映画化のチャンスをもらった。しかし、主演俳優も決まりクランクインまで3か月というところで、主幹会社の一つが映画事業から撤退することになり制作が頓挫してしまった。その後数年がかりで何度もチャレンジしたが、残念ながら映画化は実現できなかった。

 

 最近、ようやく願い叶って、別の作品だが朱川作品を手掛ける機会を得た。昨年11月に「世にも奇妙な物語」で放送された「昨日公園」だ。「昨日公園」は、ご存じの方も多いと思うが、2006年に堂本光一さん主演で同番組で放送された。今回は「世にも奇妙な物語」の25周年記念企画で名作をリメイクすることが決まり、私はリストにあった「昨日公園」を半ば強引に「自分がやる」ともぎ取ったのだ。主演は、今をときめく有村架純さん。最高に頑張り屋の女優で、友人を助けるために奮闘する主人公にぴったりだった。

 朱川ファンにも「世にも~」ファンにも人気の作品のリメイクということで、それなりのプレッシャーを感じながらもやり甲斐を持って作ることが出来た。

 

 そもそも、私が朱川作品に強く惹かれるのは何故か。

 一言で言うと「人生に効く」からだ。

 ちょっとオーバーに聞こえるかもしれないが、私はそれを実感している。

 

 前述した通り、途中下車した駅のホームで私は『花まんま』という物語を必要とする誰かに届けたいと思った。必要とする誰かというのは、大切な人を亡くし、自分を責めている人たち。かくいう私も、親友が自死し、救えなかったことを後悔していた。

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わたしの宝石
朱川湊人・著

定価:本体1,600円+税 発売日:2016年01月13日

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