物語は陰謀渦巻く波乱の展開へ――
思いのままに生きる自由な燦。自らの居場所を定め、志に生きる一途な伊月。そして、藩主の息子として生まれながら、戯作者になることを夢見る圭寿。燦が空を飛ぶ鷹ならば、伊月は地に根を張り茂る樹木だ。対極に立つ燦と伊月の絆を圭寿が繋いでいく。共鳴し合うトライアングルは切々と珠玉の物語を奏でる。
あさのあつこが紡ぐのはいつも時代を超越した少年の物語だ。いまも昔も、少年たちは葛藤を繰り返す。自分が何ものなのか、どう生きたいのか、何を目指すのか――。10代の少年少女は消化不良の悩みを抱えて道に迷う。ときには道を外れて愚かしい行動をとるかもしれない。あさのあつこは、規則や枠組みの中で生きる苦しさや、自由を求めて焦れる思いを、物語の少年たちに託して描く。「がんばれば夢は叶う」とか「必ず未来は開ける」なんてきれい事は一つも語らない。でも、「愚かなほど一途に生きることで、何かが掴めるかもしれない」と感じさせてくれる。だから、あさのあつこの物語を読むと、大人たちは胸を衝かれるのだ。過ぎた日の“負”の感情を呼び起こされるから。少年たちに思いを重ね、10代の自分をいとしく思い出すから。
長城守の嫡男・継寿が病死し、圭寿が後継となる。伊月は江戸表に出る圭寿に同行することになる。燦も伊月を追って江戸に向かう。舞台を江戸に移し、物語は陰謀渦巻く波乱の展開となっていく。奇怪な殺人が相次ぎ、ついに圭寿が標的となる。背後には、「神波」と敵対する「闇神波」の暗躍があった。神波を怨嗟する闇神波が、なにゆえ圭寿を狙うのか?
圭寿は聡明で穏やかで厚情の人。しかし、どこか得体の知れなさがある。燦も伊月も魅力的だが、圭寿がまとう禍々しい何かに気が惹かれてしょうがない。圭寿に限らず、本作の登場人物たちは、悪鬼のような人物に温情が垣間見えたり、温厚な人物に邪気が潜んでいたり、一筋縄ではいかない。最新刊の読みどころの一つでもある、継寿の側室・静門院の過去はあまりにも哀切。淫蕩な妖婦の顔に隠された真情に触れ、深く心揺さぶられる。――気がつけば敵役にまで絡め取られる、天性の物語り作家の筆力恐るべし。
ついに闇に隠れていた敵が正体を現し、燦、伊月、圭寿に襲いかかる。物語はいよいよヒートアップ。危難に遭った燦の恋人の運命は? 伊月に迫る妖艶な罠は? 圭寿の書いた戯作は出版されるのか? まだ語られていないエピソードや、解明されていない謎がてんこ盛りだ。さらなる波乱を予感して、次なる巻が待ち遠しい。
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