- 2016.08.24
- 書評
四十肩すら魅力的な女探偵。葉村晶は唯一無二、圧倒的なヒロインなのである。
文:大矢 博子 (書評家)
『静かな炎天』 (若竹七海 著)
出典 : #文春文庫
ジャンル :
#エンタメ・ミステリ
ということで、さあ、ようやく本書だ。年齢は引き続き四十代。職場も住処も変わらないが、今の晶は書店のバイト店員にして、公安にちゃんと届け出た正規の探偵である。
暴走ダンプの事故現場に居合わせたことがきっかけで窃盗事件を目撃する「青い影」、書店のご近所さんが次々に晶に仕事を依頼してくる「静かな炎天」、三十五年前に失踪した作家の関係者を探す「熱海ブライトン・ロック」、長谷川探偵調査所時代の同僚が立てこもり事件に巻き込まれる「副島さんは言っている」、戸籍が他人に使われていた事件を調べる「血の凶作」、そして本を取りに行くというだけの簡単なお使いがなぜか妙な方向に転がっていく「聖夜プラス1」の六作が収録されている。
尾行あり人探しあり、電話だけで謎を解く安楽椅子探偵あり格闘あり、稀覯本ありゴキブリあり(?)とバラエティに富んだ布陣。共通するのは晶の鋭い観察力とへこたれない行動力、にやりとするツッコミ、そして「それが関わってくるのか!」という伏線の妙だ。タイプの異なる探偵譚が存分に楽しめる。なお、『さよならの手口』から散見されるようになった加齢への愚痴にもにやりとするぞ。これまで犯人との格闘による名誉の負傷は多かったが、四十肩って。涙を禁じ得ない。笑いすぎて。
そうそう、前作に引き続き、作中にたくさんの古今東西のミステリが登場するのも見逃せない。毎回、書店のフェア用に揃えられるミステリのタイトルは、それだけで上等なテーマ別ブックガイドだ。ビブリオマニアにはたまらない。知らない作品が出てくると気になって、ついついネットの古書店を探すようになってしまった(でも「風邪ミステリ」は売れないと思うよ店長)。
とまれ、ここまでの葉村晶は生々流転、住むところも仕事の形態も、どんどん変わってきたことがお分かりいただけただろう。それをずっと見ていたのだから、四十肩に反応してしまうのも仕方ない。だが、二十代から一貫して変わっていない部分もある。トラブルを引き寄せる体質、頼まれると断れない性質、少し離れたところから自分を見つめる客観的な視点、主に地の文で発揮されるワイズクラック(しゃれた減らず口)、そして「容赦のなさ」だ。
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