- 2016.07.06
- インタビュー・対談
新刊発売記念 本にまつわる四方山話 ジェーン・スー×春日太一
『女の甲冑、着たり脱いだり毎日が戦なり。』 (ジェーン・スー 著)/『あかんやつら 東映京都撮影所血風録』 (春日太一 著)
エッセイってプレーヤー型と解説型の2パターンある。
スー 女性の登場人物がいないなと思ったので、その加筆は楽しみですね。私のオススメ本はしまおまほさんの『マイ・リトル・世田谷』。文章のトーンが好きで、いろんな人に薦めているんです。しまおさんは世田谷が自分の陣地で、隣の杉並に出ると緊張するとありました。私もそうですが東京生まれ・東京育ちの人でも、自分にとっての東京って3区か4区くらいですよね。春日さんの東京って何区と何区ですか。
春日 僕はこの本のタイトルを見た時に心がざわついたぐらい世田谷が遠い場所です。新宿・中野のガラの悪い人たちがいるエリアで育ったので。こういう本って、自分の東京観がすごく見えますね。『マイ・リトル・世田谷』はおっとりしている。
スー そう。夕暮れの4時半の感じ。性善説の人たちの午後4時半。
春日 ノスタルジックというかファンタジックな雰囲気ですね。
スー 私、自分の新刊をこれくらい行間を読ませる、落ち着きのあるものにしたくて担当編集者にもこの本を渡したんですよ。
春日 えっ。それがなぜ甲冑を着た表紙になったんでしょうか。タイトルも『女の甲冑、着たり脱いだり毎日が戦なり。』ですよ。
スー ねえ。なんでだろう。ゲラでも書き足しちゃったし。
春日 僕、エッセイってプレーヤー型の人と解説型の人の2パターンあると思っていて。しまおさんはプレーヤー型。日常を生活している主観の視点で書くので、書き手の視点が移った瞬間、文章も飛ぶ。それが行間になるし、文章の味になる。スーさんは解説型。自分の行動に対してもうひとつ別の視点が入って、そこを解説で埋めていくから、どうしても文章が長くなる。僕はそういう文章のほうが読みやすいんです。
スー そういう人がいると知っただけで、生きててよかった。
春日 僕は子どもの頃から日常から逃げたくて本を読んでいたので、日常が書かれているエッセイは読まなかったんです。でもどちらのエッセイも女性にしか分からない世界が書かれてあって、それは僕には非日常なんです。特にスーさんのは知的好奇心も刺激されて、楽しくてしょうがない。うなずく部分もあるし。
スー 春日さんの中に40代中年女がいたんですね。どのあたりですか。
春日 額の露出度と意思の話とか。僕は今額を出していますが、前髪を上げるようになったのは人前に出るようになった2年ほど前から。確かにそこに自意識があると気づきました。それと、『あかんやつら』に出てくる役者はみんな額を出しているけれど、今の若い役者は額を隠しているんですよね。昔の役者のほうが「俺の顔を見ろ、俺の芝居を見ろ」という感じで、今の人は一歩引いているのかもしれない、と思いました。
スー おでこを出してから、人格は変わりましたか。
春日 「柔らかくなった」と言われます。僕、はしゃぐことに30年、目を背けてきましたが、今は踊る阿呆になる快感を知りました。結構地方に行くとハメ外すんです。顔ハメ看板に顔ハメて写真を撮ったりとか。
スー あのう。38歳の男が「俺、地方ではハメ外すんだよ」というと、酒か女か博打かと思うんですけれど。
春日 僕はハメてハメ外すという。
スー なんて無害な人なんだ! 異性の好みも変わりましたか。
春日 ああ、変わりましたね。今までは趣味が近い人がよかったんですが、今は自分のペースで「私、ディズニーランドに行きたい!」と言ってくれるような人がいい。
スー あ、つきあっている相手に同化したいタイプですね?
春日 こっちに同化したがる人は面白くない。今は外圧をかけてほしい。
スー 俺を開国してほしい、ってわけですか。縦に「ペリー求む」って書かれたTシャツを着たほうがいいですよ!(笑)
《スーさんオススメの本》
『マイ・リトル・世田谷』
しまおまほ スペースシャワーネットワーク ¥1,600
漫画やエッセイの執筆など多方面で活躍する著者が、街のうつろい、友人たちや犬や猫のこと、中学生時代の思い出など、のびやかにつづるエッセイ集。著者撮影の写真も多数掲載されている。
《春日さんオススメの本》
『4522敗の記憶』
村瀬秀信 双葉文庫 ¥759
1998年に日本一に輝いたものの、栄光が続かない横浜DeNAベイスターズ。チームに対する思いを、現役選手やOB、歴代監督ら関係者多数に取材、この球団の歴史をたどるベイスターズファン必読のノンフィクション。
文:瀧井朝世/撮影:榎本麻美
あかんやつら
発売日:2016年12月09日
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『赤毛のアン論』松本侑子・著
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