- 2016.02.02
- インタビュー・対談
働く女子は活躍できるのか? 濱口桂一郎×上野千鶴子、"組織の論理"と"女性の論理"が大激論!(前編)
「本の話」編集部
『働く女子の運命』 (濱口桂一郎 著)
ジャンル :
#ノンフィクション
日本型雇用の出発点――「生活給」思想
上野 濱口さんがおっしゃる生活給は「家族給」とも言いますね。これまでの日本の労働の議論では、長時間労働をやめろ、というところまでは合意できているのに、家族給を否定する人はほとんどいなかった。
濱口 逆に言うと、欧米でも家族給モデルを議論した時期もありましたが、それが根付くことがなかったのです。そこで、なぜ欧米で根付かなかったのか、と考えると実に面白いんですね。欧米には中世以来のギルドの伝統を引く職業別組合があって、「職務給」の考え方が牢固として存在していました。だから仕事の中身抜きの家族給は受け入れられなかった。ところが、日本でまともに賃金制度を作る際には、初めから生活給の思想が流れ込んできて、職務給の伝統がなかった日本では、それが確立してしまったわけです。
上野 後発近代化のおかげで「男性稼ぎ主モデル」を作っちゃったわけですね。
濱口 私の問題意識は、性別役割分業は世界共通に存在していたのに、なぜ日本だけ差別が残ったのか、ということにあります。昔のイギリスの給料は、同じ仕事なのに「女だから三分の二」なんてこともありました。でもそれをダメだ、という社会のムードが出来てきたら、意外とスムーズに男女平等が実現されていった。それは根強い職務給思想があったからこそなんですね。日本にはそれが欠けていたわけです。
上野 梅棹忠夫さんは「武家社会の伝統」「俸給性」が「生活給」にも関係していると仰っていますが。
濱口 それもあるかもしれませんが、むしろ日本型雇用というのは新しいシステムなのではないでしょうか。明治時代の日本は労働力の流動性は高かったのに、固定的になってきたのは戦時体制期と戦後なのです。
上野 日本型雇用はアメリカ生まれなのに、それが定着したのが戦後日本だと言われています。高度成長期に会社に隷属する「社畜」である夫と、家庭の中に閉じこもった「家畜」である妻によるガラパゴスが出来上がった。
濱口 でも、欧米が変わったのも1970~80年代でした。実は日本でも、60~70年代には「生活給から職務給へ」と政府や経営側が努力していた時代がありました。しかし、同時に日本経済が予想以上の発展を遂げたため、それまでのシステムもすばらしいんだという話になってしまった。ジャパン・アズ・ナンバーワンともてはやされた結果、「生活給と日本型雇用はすばらしい」ということになってしまったんです。
上野 そのとおり、過去の成功体験が改革を遅らせました。日本型雇用の三点セットが「年功序列」「終身雇用」そして「企業内組合」ですから、こうした労働環境は「労使の共犯」ということになりますね。
濱口 「共犯」という言葉を私は使いませんが、実はこの本のメインテーマの一つにもなっているのが、「生活給は企業内組合が積極的に進めてきた」という事実です。経営側は、60年代までは欧米型の職務給にしよう、と言っていたんですが、男性社員で作られる組合が主体となって、女子に不利なシステムを推し進めていったんです。
上野 50年代から60年代にかけて「生活給」に最も賛成していたのが労働組合でしたからね。春闘で「かあちゃんが働かなくてもすむ賃金をとうちゃんに!」と要求してきたくらいですから。労働組合は女性の敵です(笑)。
濱口 左派の中でも、共産党だけはいまだに悔い改めていませんね(笑)。
後編に続く
働く女子の運命
発売日:2016年01月15日
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