日本におけるジェンダー研究の第一人者である上野千鶴子さん。本書は過去の著作群から上野さんのエッセンスが詰まった140の「金言」を選び抜きました。毀誉褒貶を生き抜く著者初の「語録」は、仕事や家族、結婚や老後など日々まとわりつく不安を乗り切るヒントにあふれています。
10代読者が抱えるつらさ
「10代の頃から上野さんの本を読んでいました」って言う人に出会うとね、あなたそんなにつらかったの……と抱きしめたくなる。
私の本が読まれるということは、自分が女であることに折り合い悪い人、女であるとワリが悪いと感じる人がいる証拠です。
そもそもなんで私が本を書いてきたかというと、自分自身がサバイバルするためでした。やるかたない思い、満たされない思いがあるから、書かずにはおられなかった。書かずに済めば、それに越したことはないですよ。自分自身が必死になって、言葉を紡いできたということが、この語録を作ってみてよく分かりました。
本当は、私の本が読まれなくなる世の中になれば一番です。でも、自分がまず必要としてきたものを、10代の人たちが必要としてくれるのはとてもうれしいですね。
人の器と、理解力
人は自分の器に応じた理解力しかないからね。
私が東大へ赴任することが決まったとき、「上野さんも、やっぱり権力が大好きなお姉さんだった」と言われたことがあります。研究会を主宰したら、 「ああやって、自分の勢力を延ばしてる」と非難されたことも。そのたびに、こう思ってました。おまえ、自分の器で人をはかるなよ、と。
でもね、非難してくる人の誤解を解くことはできないんです。だから、そんなどうでもいい人の評価に反発せず、自分のやることで勝負するまでです。何か言われたら、しょせん、その程度の奴だったのか、と思うだけ。
とどめを刺さず、もてあそべ
相手にとどめを刺しちゃいけません。(略)その世界であなたが嫌われ者になる。それは得策じゃない。あなたは、とどめを刺すやり方を覚えるのではなく、相手をもてあそぶやり方を覚えて帰りなさい。
じつは告白するとね、相手をもてあそんだことで、私はたくさん恨みを買いました(苦笑)。男はね、公衆の面前で、攻撃されるならまだしも、コケにされることが、絶対に許せないの。攻撃するというのは、いわば、かかってこい、という対等のケンカ。でも、コケにするというのは、力量の差を衆目に明らか にすること。こちらのほうが、高等テクニックが必要なのですが。
ようは、勝負の相手は、目の前のアンタではなく聴衆だぜ、ということ。対立する相手を、説得したり折伏するのは無理。だから私自身、自分の読者は、こんな狭いところにはいない。自分のメッセージを伝えたい相手は、もっと遠くにいる。そんな思いで、いままで本を書いてきました。
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『赤毛のアン論』松本侑子・著
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