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英国の“激しい”現場を見て、〈報道哲学〉を考える

英国の“激しい”現場を見て、〈報道哲学〉を考える

文:澤 康臣 (共同通信記者)

『英国式事件報道 なぜ実名にこだわるのか』 (澤康臣 著)


ジャンル : #ノンフィクション

  伝統あるイギリスの新聞は日本と違い政治や社会についての論説を旨とし、殺人や強盗といった犯罪をデカデカと報道することなどない、まして裁判で有罪が確定してもいない段階で逮捕された容疑者のことを書き立てたり、被害者の私事を暴露したりなどあり得ない――そんな「常識」が広く流布している。「日本の新聞は所詮瓦版、下世話なのぞき見趣味なのだ」「真のジャーナリズムは日本にない」と、手厳しい非難の言葉が続くこともある。

  確かに、日本とイギリスでは事件報道の仕方が違う。

  イギリスのほうが激しいのだ。

  日本の報道機関で長く社会部記者をしてきた私がその違いを感じ始めたのは、インターネットで海外の新聞を気軽に読めるようになった頃からだった。英語圏の新聞サイトを読むと、「あれ、これを書いちゃうのか」と思わずつぶやく。これらの新聞では、人の名前を匿名にしたり、残酷で生々しい事実関係をぼかした表現に抑えるというような措置が非常に少ないように見えたのだ。そうした措置こそ配慮であると考えてきた自分にとって少なからぬ驚きである。

  もとより「どこまで書くか」「どう書くか」は記者にとって常に深刻だ。人を傷つけたくない。しかし真実をきちんと伝えねばならない。だから、関係する人物を匿名にしたり事実関係をぼかしたり、弥縫(びほう)的かもしれないがせめてもの工夫をこらし、真実と配慮のバランスを取ってきた。そのバランスがどうやらイギリスではかなり違う。いったい現場はどうなっているのか。記者はどんなつもりでここまで書いているのか。私がイギリスの事件事故報道を現地の大学に籍を置いて調査することに決めたのは、そういう経緯からだ。

  イギリスは新聞が愛される国である。名物のパブに行けば、グラスを手に一時間ほどもかけて濃くぬるいビールをすすりながら、新聞をゆっくりと読む御仁が本当にいる。ロンドンの地下鉄では座っている乗客のほとんどが新聞を広げていることもある。最近台頭してきた無料紙に押され気味ではあるが……。そんな国で、私もイギリス市民に負けじと毎日高級紙、大衆紙を合わせ最低六紙を読み、内容を分析することを日課とした。

英国式事件報道
澤 康臣・著

定価:1800円(税込) 発売日:2010年09月29日

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