書評

甘粕正彦、李香蘭――満洲映画協会の最期を見届けて 95歳映画編集者・岸富美子

文: 岸 富美子

『満映とわたし』(岸富美子・石井妙子 著)

映画会社社員が極寒の中、炭鉱労働へ

 敗戦後、侵攻してきたソ連軍は本当に恐怖でした。若い女性は襲われないように顔を汚したりしたものです。そのうち中国国民党と共産党の国共内戦が始まり、旧満映社員たちは帰国もできず、困難な選択を迫られることになります。

岸富美子きしふみこ/1920年、中国奉天省営口で生まれる。15歳で京都の第一映画社に入社し、編集助手となる。1939年、満洲に渡り、満洲映画協会に入社。敗戦後、中国共産党とともに行動し、1953年まで中国映画の草創期を支える。帰国後はフリーランスとして主に独立プロの映画編集を手がけた。

 私や兄の一家は旧満映の映画機材を守りたいという思いもあり、中国共産党と共に中国北部に向かうことになりました。当時の有名な映画監督だった内田吐夢さんや木村荘十二さんも一緒です。食糧もなく、極寒の中での炭鉱労働や、閉ざされた日本人社会の中での裏切り、密告、吊し上げ……。いろんなことがありました。

 その詳細は、これまであまり語られてこなかったのです。私はどうしても、それを書き残したかった。今回の本の原点となっています。

 国共内戦が終わり、私たちは長春の旧満映撮影所に戻り、中国共産党が作る映画の製作に協力しました。私が編集を担当した『白毛女』という映画は、今でも中国人で知らない人はいない国民的映画と言われています。

 しかし、旧満映の日本人技術者たちが映画の製作に協力していたことは、長く伏せられていました。状況が変わったのは比較的最近のことです。

石井妙子いしいたえこ/ノンフィクション作家。1969年、神奈川生まれ。著書に『おそめ』(新潮ドキュメント賞、講談社ノンフィクション賞、大宅壮一ノンフィクション賞の最終候補作)、『日本の血脈』ほか。

 結局、私たちが帰国したのは昭和28年。満洲に渡ってから14年が経っていました。

 一昨年、ノンフィクション作家の石井妙子さんの取材を受けたことから、「甘粕正彦と満洲映画『94歳最後の証言』」(「文藝春秋」2014年10月号)という記事になり、それが今回の出版につながりました。

 今まで語らなかったこと、語れなかったこと、語っても活字にならなかったこと。すべてがここに綴られています。

 戦後70年という節目の年に、この本を上梓することができました。長い命を授かった使命を今、果たせたように感じています。

満映とわたし
岸富美子、石井妙子・著

定価:本体1,600円+税 発売日:2015年08月05日

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